【気まぐれ童話】猫とカラスの約束事

2022年4月10日

今回はなんとなく気分で童話を書いてみました。気まぐれに語る童話をどうぞ。

「ここはワインも美味しいし、ティー君もいて癒されるわね。」

今日もなじみのご近所さんが、お父さんの農場にワインを買いに来てくれました。

ティー君と呼ばれた猫は、お客さんになでられ気持ちよさそうに目を細めます。

 

「私の農場のブドウはカラスに食べられずにすむからね。ティーが見回りしてくれるおかげかな。」

お父さんもティー君をなでながら、目を細めて笑いました。

 

ワインを持って帰るお客さんを、お父さんとティー君が見送ります。お客さんが帰った後、お父さんはワイン工場に、ティー君は日課の農場の見回りに出かけました。

 

ティー君はまっすぐ農場を進んでいきます。

目的地がはっきり決まっているのです。

ティー君が目的地に着くと、そこには1羽のカラスが待っていました。

カラスはティー君に気が付くと、早速声をかけてきます。

「ティー君、約束のものは持ってきたかい?」

 

ティー君はすぐに答えます。

「もちろん持ってきたよ。約束通りにお父さんの畑のブドウは食べないでね。」

そう言うとティー君はカラスに7色に輝く石を渡しました。

 

カラスは満足そうに石を受け取ると答えます。

「もちろん約束は守るよ。ティー君が約束を守ってくれる間はね。」

そう言うとカラスは飛び去っていきました。

 

カラスを見送ったティー君は、ブドウ畑の隣の森の中に入っていきました。

明日渡す石を探しに行ったのです。

森の中には小川が流れていました。

ティー君はずぶ濡れになりながら川に入っていって石を探します。

小川はお日様の光を反射してキラキラと光っています。それでもティー君には不思議と目的の石が見えるのです。

 

やがてティー君は7色に光る小石をくわえて小川から出てきました。

プルルッと体を振って水を飛ばすと、ティー君は日向ぼっこをしに行きます。

お父さんを心配させないように、体が乾くまでのんびり休憩します。

 

家に帰ったティー君を、仕事を終えたお父さんが出迎えました。

「ティー君見回りご苦労様。」

ティー君は特等席のお父さんの膝の上で丸くなります。お父さんになでてもらうこの時がティー君にとって一番幸せな時。

夢心地になりながらも、明日も頑張ろうと誓うティー君。

 

ところが翌日のこと。

いつものようにカラスに約束の石を渡したティー君は、いつもの小川に足を運びます。

小川は昨日の夜に降った雨で、すっかり濁ってしまっていました。

 

ずぶ濡れになりながら石を探すティー君。

だけどさすがのティー君にもどこに石があるかわかりません。

 

必死で探し続けていたら、あっという間に夕方になっていました。

仕方なくずぶ濡れのまま、ティー君は家に帰ります。

泥水で濡れたティー君を見て、お父さんはびっくり!慌ててお湯とタオルを用意して、ティー君をキレイに洗って拭いてあげました。

 

そして日が変わり。

いつものようにティー君はカラスに会いに行きます。

昨日のティー君の様子に不安を感じたお父さんは、ティー君の後をこっそりつけていきました。

 

カラスはティー君を見つけると、いつものように石を要求してきました。

ですが、ティー君は石を持っていません。

 

カラスは言いました。

「約束の石をもらえないなら、代わりにブドウをもらうよ。」

 

ティー君は慌てて言葉を返します。

「夕方までには持って来るから、お父さんのブドウを食べないで!」

 

カラスも言葉を返します。

「夕方まで待っていたら、ご飯の時間が終わってしまうよ。それにもうお腹もペコペコだ。ブドウはもらうよ。」

 

ティー君は悲鳴をあげるようにカラスにお願いします。

「それだけはやめて!お父さんの大切なブドウを食べないで!」

 

カラスは言いました。

「約束だから今まで我慢していただけだよ。ティー君はあのキレイに光る石を渡す。代わりに俺たちはティー君のお父さんの畑のブドウは食べない。

でもティー君は石を持ってこなかった。約束を破ったのは君だろう?」

 

その時ティー君の後ろから声がしました。

「分かった。ブドウ畑の南側、一番出来のいい所をやろう。代わりにティーをいじめるな。」

 

ティー君もカラスもびっくりして声のした方を見ました。

そこにはお父さんが立っていたのです。

 

ティー君はびっくりしてお父さんに言いました。

「一番出来のいいブドウなんてとんでもない!きっといいワインが出来るのに!」

 

お父さんはカラスに言いました。

「それと明日からは私が石を用意してやろう。だからもうティーを自由にしてやってくれ。」

 

カラスは言いました。

「じゃぁ今日はブドウをいただくよ。明日からはまた石をよろしくな。」

 

飛び去ろうとしたカラスにお父さんは続けて声をかけました。

「ちょっと待ってくれ。まだ話したいことがある。」

 

カラスはお腹が空いているため、ちょっと不機嫌に返します。

「なんだい、まだあるのかい?いい加減ご飯にしたいんだが。」

 

そんなカラスに、お父さんは言いました。

「明日から時々場所を変えてブドウをやろう。代わりにブドウの味の感想を聞かせてくれ。どうだ?」

 

カラスはびっくりして聞き返します。

「石をくれるのに、ブドウもくれるのかい?」

 

お父さんはカラスに言い返します。

「いいブドウが出来ればいいワインが出来る。君たちはいいブドウを見分けるのが上手だ。ぜひ意見を聞かせてほしいんだ。」

 

カラスは言いました。

「それでいいなら大歓迎だ。いいブドウを作ってくれよ。」

そういうと、カラスは飛び去っていきました。

 

カラスが飛び去って行くと、お父さんはティー君に尋ねました。

「カラスとの約束の石って何だい?」

 

ティー君はお父さんに包み隠さず話しはじめました。

カラスが大好きな石が森の小川の中にあること。

カラスには水の中の石が見えないけれど、自分には見えること。

石を渡す代わりに、畑のブドウには手を出さない約束だったこと・・・。

 

お父さんはティー君の話を一通り聞くと、ティー君を連れて家に帰りました。

家にはお父さんの子供たちが学校から帰ってきていて、さっそく遊びに行こうとしていたところでした。

 

お父さんは子供たちを集めて聞きました。

「ブドウ畑の隣の森に、小川があるのを知っているかい?」

子供たちにとって夏の遊び場でもあったため、みんな小川のことを知っていました。

 

お父さんは子供たちに続けて聞きました。

「そこに7色に光る石があることは知っているかい?」

今度は子供たちは首を横に振りました。

子供たちにも水の中の石は見えなかったのです。

お父さんは子供たちに言いました。

「これから毎日ティーと一緒に小川に行って、光る石を1個でいい。拾っておいで。そうしたらお礼にお小遣いをあげよう。」

子供たちは喜んで引き受けました。

 

お父さんはティー君にも言いました。

「これからは無理をしなくてもいい。今までよく頑張ってくれてたな。ありがとう。」

 

ティー君はお父さんに甘えながら言いました。

「僕の方こそありがとう。お父さん、大好きだよ!」

 

それからしばらくたってからのこと。

お父さんのワイン工場では2つの看板ワインが出来ました。

1つはティー君印の白ワイン。もう1つはカラス印の赤ワイン。

 

今日もティー君はお父さんとカラスと一緒に、美味しいワインを作っています。

 

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原案・文:koroton

 

童話まったり系

Posted by koroton