【気まぐれ童話】猫とカラスの約束事
今回はなんとなく気分で童話を書いてみました。気まぐれに語る童話をどうぞ。
「ここはワインも美味しいし、ティー君もいて癒されるわね。」
今日もなじみのご近所さんが、お父さんの農場にワインを買いに来てくれました。
ティー君と呼ばれた猫は、お客さんになでられ気持ちよさそうに目を細めます。
「私の農場のブドウはカラスに食べられずにすむからね。ティーが見回りしてくれるおかげかな。」
お父さんもティー君をなでながら、目を細めて笑いました。
ワインを持って帰るお客さんを、お父さんとティー君が見送ります。お客さんが帰った後、お父さんはワイン工場に、ティー君は日課の農場の見回りに出かけました。
ティー君はまっすぐ農場を進んでいきます。
目的地がはっきり決まっているのです。
ティー君が目的地に着くと、そこには1羽のカラスが待っていました。
カラスはティー君に気が付くと、早速声をかけてきます。
「ティー君、約束のものは持ってきたかい?」
ティー君はすぐに答えます。
「もちろん持ってきたよ。約束通りにお父さんの畑のブドウは食べないでね。」
そう言うとティー君はカラスに7色に輝く石を渡しました。
カラスは満足そうに石を受け取ると答えます。
「もちろん約束は守るよ。ティー君が約束を守ってくれる間はね。」
そう言うとカラスは飛び去っていきました。
カラスを見送ったティー君は、ブドウ畑の隣の森の中に入っていきました。
明日渡す石を探しに行ったのです。
森の中には小川が流れていました。
ティー君はずぶ濡れになりながら川に入っていって石を探します。
小川はお日様の光を反射してキラキラと光っています。それでもティー君には不思議と目的の石が見えるのです。
やがてティー君は7色に光る小石をくわえて小川から出てきました。
プルルッと体を振って水を飛ばすと、ティー君は日向ぼっこをしに行きます。
お父さんを心配させないように、体が乾くまでのんびり休憩します。
家に帰ったティー君を、仕事を終えたお父さんが出迎えました。
「ティー君見回りご苦労様。」
ティー君は特等席のお父さんの膝の上で丸くなります。お父さんになでてもらうこの時がティー君にとって一番幸せな時。
夢心地になりながらも、明日も頑張ろうと誓うティー君。
ところが翌日のこと。
いつものようにカラスに約束の石を渡したティー君は、いつもの小川に足を運びます。
小川は昨日の夜に降った雨で、すっかり濁ってしまっていました。
ずぶ濡れになりながら石を探すティー君。
だけどさすがのティー君にもどこに石があるかわかりません。
必死で探し続けていたら、あっという間に夕方になっていました。
仕方なくずぶ濡れのまま、ティー君は家に帰ります。
泥水で濡れたティー君を見て、お父さんはびっくり!慌ててお湯とタオルを用意して、ティー君をキレイに洗って拭いてあげました。
そして日が変わり。
いつものようにティー君はカラスに会いに行きます。
昨日のティー君の様子に不安を感じたお父さんは、ティー君の後をこっそりつけていきました。
カラスはティー君を見つけると、いつものように石を要求してきました。
ですが、ティー君は石を持っていません。
カラスは言いました。
「約束の石をもらえないなら、代わりにブドウをもらうよ。」
ティー君は慌てて言葉を返します。
「夕方までには持って来るから、お父さんのブドウを食べないで!」
カラスも言葉を返します。
「夕方まで待っていたら、ご飯の時間が終わってしまうよ。それにもうお腹もペコペコだ。ブドウはもらうよ。」
ティー君は悲鳴をあげるようにカラスにお願いします。
「それだけはやめて!お父さんの大切なブドウを食べないで!」
カラスは言いました。
「約束だから今まで我慢していただけだよ。ティー君はあのキレイに光る石を渡す。代わりに俺たちはティー君のお父さんの畑のブドウは食べない。
でもティー君は石を持ってこなかった。約束を破ったのは君だろう?」
その時ティー君の後ろから声がしました。
「分かった。ブドウ畑の南側、一番出来のいい所をやろう。代わりにティーをいじめるな。」
ティー君もカラスもびっくりして声のした方を見ました。
そこにはお父さんが立っていたのです。
ティー君はびっくりしてお父さんに言いました。
「一番出来のいいブドウなんてとんでもない!きっといいワインが出来るのに!」
お父さんはカラスに言いました。
「それと明日からは私が石を用意してやろう。だからもうティーを自由にしてやってくれ。」
カラスは言いました。
「じゃぁ今日はブドウをいただくよ。明日からはまた石をよろしくな。」
飛び去ろうとしたカラスにお父さんは続けて声をかけました。
「ちょっと待ってくれ。まだ話したいことがある。」
カラスはお腹が空いているため、ちょっと不機嫌に返します。
「なんだい、まだあるのかい?いい加減ご飯にしたいんだが。」
そんなカラスに、お父さんは言いました。
「明日から時々場所を変えてブドウをやろう。代わりにブドウの味の感想を聞かせてくれ。どうだ?」
カラスはびっくりして聞き返します。
「石をくれるのに、ブドウもくれるのかい?」
お父さんはカラスに言い返します。
「いいブドウが出来ればいいワインが出来る。君たちはいいブドウを見分けるのが上手だ。ぜひ意見を聞かせてほしいんだ。」
カラスは言いました。
「それでいいなら大歓迎だ。いいブドウを作ってくれよ。」
そういうと、カラスは飛び去っていきました。
カラスが飛び去って行くと、お父さんはティー君に尋ねました。
「カラスとの約束の石って何だい?」
ティー君はお父さんに包み隠さず話しはじめました。
カラスが大好きな石が森の小川の中にあること。
カラスには水の中の石が見えないけれど、自分には見えること。
石を渡す代わりに、畑のブドウには手を出さない約束だったこと・・・。
お父さんはティー君の話を一通り聞くと、ティー君を連れて家に帰りました。
家にはお父さんの子供たちが学校から帰ってきていて、さっそく遊びに行こうとしていたところでした。
お父さんは子供たちを集めて聞きました。
「ブドウ畑の隣の森に、小川があるのを知っているかい?」
子供たちにとって夏の遊び場でもあったため、みんな小川のことを知っていました。
お父さんは子供たちに続けて聞きました。
「そこに7色に光る石があることは知っているかい?」
今度は子供たちは首を横に振りました。
子供たちにも水の中の石は見えなかったのです。
お父さんは子供たちに言いました。
「これから毎日ティーと一緒に小川に行って、光る石を1個でいい。拾っておいで。そうしたらお礼にお小遣いをあげよう。」
子供たちは喜んで引き受けました。
お父さんはティー君にも言いました。
「これからは無理をしなくてもいい。今までよく頑張ってくれてたな。ありがとう。」
ティー君はお父さんに甘えながら言いました。
「僕の方こそありがとう。お父さん、大好きだよ!」
それからしばらくたってからのこと。
お父さんのワイン工場では2つの看板ワインが出来ました。
1つはティー君印の白ワイン。もう1つはカラス印の赤ワイン。
今日もティー君はお父さんとカラスと一緒に、美味しいワインを作っています。
※無断で転載・複製等はしないでください
原案・文:koroton