ヒヨドリ【庭にくる鳥たち】
我が家の庭に遊びにくる鳥にヒヨドリがいます。声が大きくて甘いものが大好きという印象の、全体に灰色がかった鳥です。秋には庭になる柿の実を食べに、冬には南天の実や蝋梅の花を食べにきます。今回はそんなヒヨドリについて、気まぐれに調べてみました。
ヒヨドリってどんな鳥?
ヒヨドリの特徴
ヒヨドリの特徴をまとめると以下になります。
科目 | スズメ目ヒヨドリ科ヒヨドリ属 |
体長 | 約27~29cm |
体重 | 約65~100g |
翼開長 【翼を広げた長さ】 | 約40cm |
尾の長さ | 約11~12.5cm |
体色 | 雌雄同色 ・くちばしは黒くて先がとがる ・頭部から胴体にかけて灰色 ・お腹には白と灰色の斑模様 ・頬は褐色 ・頭頂部に冠羽がある ・翼や尾羽は灰褐色 ・南の個体ほど体色が濃くなる (紫外線から身を守るためでグロージャーの法則とよばれる) |
見た目も大きさも異なりますが、スズメの仲間です。体つきはほっそりしています。雌雄の違いは人間ではほとんどわかりません。しかしヒヨドリは紫外線の反射でオスとメスを見分けています。
ヒヨドリの鳴き声
ヒヨドリの声は鋭く大きいため、今では都会でも騒音扱いになっています。しかし実際どのような鳴き声をしているか知らない方も多いことでしょう。
特にヒヨドリはさまざまな鳴き方をするため、鳴き声を聞いても同じ鳥と気付いていない方も多いかもしれません。ではどのような鳴き方をするのでしょうか?その答えはこちらの動画でご確認ください。
ヒヨドリの名前の由来
ヒヨドリの名前はその鳴き声から付いたとする説が一般的です。「ヒーヨヒーヨ」と鳴く鳥でヒヨドリになったといわれています。
このほかでは、かつてヒヨドリの古名であった「稗鳥(ひえどり)」が変化したとする説も。しかしヒヨドリは稗を好んで食べることはありません。そのため説としては弱いといえます。
ヒヨドリの生態
概要
ヒヨドリの生態をまとめると以下になります。
分布 | ・日本 ・サハリン ・朝鮮半島南部 ・台湾 ・中国南部 ・フィリピン北部(ルソン島) 【日本以外では個体数が少ない】 |
分類 | 留鳥【北海道や東北など一部では漂鳥】 |
生息域 | ・里山や公園などそれなりに樹木のある場所 ・都市部 |
食性 | 雑食【繁殖期は果実と昆虫類・非繁殖期は果実と花の蜜が主食】 |
性格 | ・自分より大きい相手には警戒心が強い ・自分より小さい相手には気が強い ・エサが絡むと仲間にも攻撃的 |
天敵 | 猛禽類・ヘビ・カラス・猫など |
寿命 | ・野生では4~5年ほど ・飼育下では8年ほど【最高記録は10年】 |
日本ではほぼ全国にいる鳥ですが、世界的に見ると日本とその周辺地域にしかいない珍しい鳥です。周辺地域でも個体数が少ないため、日本固有の鳥に間違えられることもあります。
ヒヨドリは留鳥でもあり漂鳥でもある
日本国内では一年中見られる鳥ですが、春と秋には群れを成して渡る姿も見られます。房総半島南端や伊良湖岬、関門海峡などが有名で、中でも関門海峡は1,000羽をこえる大きな群れも観測できるポイントです。
ただし長い時間をかけて長距離を移動することはないといわれます。一方で北海道や東北などの寒冷地では「夏鳥」のため、留鳥であると同時に国内を移動する漂鳥です。
天敵から身を守るために
ヒヨドリは海を渡るとき、水面すれすれを飛んでいきます。中には波にのまれるものもいるほどの危険を冒す理由は、天敵であるハヤブサに襲われるリスクを減らすためです。
ハヤブサは急滑降でヒヨドリの群れを襲い、高めに飛んでいる個体を狙います。ハヤブサの方も命がけで、獲物にかわされれば海面に突っ込んで死にかねません。食うもの食われるもの、どちらにとっても真剣勝負です。
ヒヨドリは飛行能力に優れる
ヒヨドリは通常、波状飛行(バウンディングフライト)と呼ばれる飛び方をします。短く羽ばたいて上昇しては翼をたたんで滑空する、を繰り返す、エネルギー消費量の少ない飛び方です。
またハチドリほど上手ではありませんが、ホバリングすることもできます。そのためとまりにくい場所にあるエサも逃しません。
状況に応じた飛び方ができる器用さを持っている鳥です。
ヒヨドリは益鳥であり害鳥
ヒヨドリは雑食性で、植物の種や実のほか昆虫も食べます。特に夏の繁殖期には子育てのため、さまざまな虫を食べて駆除してくれる益鳥です。
しかし果物をつついて傷物にしたり、畑の作物を食い荒らしたりすることから害鳥でもあります。農林水産省によると、令和2年度(2020年度)のヒヨドリによる農作物被害額は約4億円でした。かなりの被害額であることがわかります。
ヒヨドリは狩猟鳥でもある
害鳥でもあるヒヨドリは駆除の対象です。そのため狩猟鳥に認定されています。
そんなヒヨドリは新米ハンターが狩りの練習をするのにもおすすめの狩猟鳥です。
1日の狩猟上限がなく、基本的にどこにでもいます。さらによく鳴くので、獲物を探す練習台としてももってこいです。飛び方も独特なため、獲物に当たるように撃つ練習もできます。銃の構え方の練習にもなるなどいいことずくめというのです。
さらに銃もクレー射撃用の銃で充分なため、大型の獲物を狙うよりも比較的安全に猟ができます。味もよいというので、手始めに狙うのにピッタリです。
狩猟には許可が必要
いくらヒヨドリが駆除対象とはいえ、誰でも狩りができるわけではありません。必ず法に定められた手続きを行う必要があります。
もし無許可で狩りを行った場合は、「鳥獣保護法(鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律)」違反になるため要注意です。
場合によっては「銃刀法(銃砲刀剣類所持等取締法)」などにも違反してしまいます。
詳しくは環境省「狩猟ポータル」をチェックしてみてください。
ヒヨドリの繁殖
特徴
ヒヨドリの繁殖形態をまとめると以下になります。
繁殖期 | 5~9月 |
繁殖回数 | 2~3回【失敗による繰り返し繁殖が多い・成功率は50%ほど】 |
縄張りの広さ | 1万4000平方メートルほど |
つがいの形態 | 一夫一妻制 |
営巣場所 | 高さ1~5mほどの木の枝の上 |
巣の形・材料 | 外径10~20cm・内径6~10cm・深さ3~6cmのおわん型 材料:小枝・枯れつる・イネ科の茎・細かい根・ビニールのひも・松葉やシュロの繊維・ササの葉など |
抱卵担当 | 主にメス |
子育て担当 | つがい |
卵の大きさ | 長径約2.95cm・短径約2.05cm【淡いバラ色に赤褐色の斑】 |
卵の数 | 3~5個【平均4個】 |
孵化までの日数 | 12~14日 |
巣立つまでの日数 | 10~11日 |
ヒナは巣立ってから数日の間、あまり飛ぶことはできません。そのため親は飛べるようになるまでエサを運び続けます。ヒナは飛べるようになってからも、1~2か月間は親鳥と一緒です。そんなヒヨドリの子育ての様子は、こちらの動画をご覧ください。
勘違いに注意
巣立ったばかりのヒナを勘違いから保護する方が多くいます。しかしヒヨドリの保護には届け出が必要です。また飼育も原則認められていません。
もし地面に落ちているようなら枝の上に移動させ、離れた場所で親鳥が来るのを待ちましょう。ヒナが弱っているようなら自治体の環境課などに連絡を入れ、指示をあおいでください。保護したヒナは「日本野鳥の会」などに連絡を入れ、専門家に預けると安心です。
近年では都心部でも繁殖
ヒヨドリは東京都内では1960年代まで冬鳥として訪れる漂鳥でした。しかし1970年代になると一年中生息するようになり、繁殖もする留鳥になったのです。この事実は新聞の一面でも報道されたほど、注目を集める変化でした。
ヒヨドリが都心部でも繁殖するようになった理由は、エサの問題が解決されたからなどが推察されています。しかし正確な理由はいまだ判明していません。
もともとは平地から山林で繁殖していたヒヨドリが、平野部にまで分布域を広げた経緯はまだ研究中です。
主に樹上で生活する鳥でもあるため、公園の木々や街路樹でよく見かけます。
ヒヨドリが巣を作ると縁起がよい?
ヒヨドリに限らず、鳥が家に巣をつくることは繁栄の象徴とされています。中でもヒヨドリの場合は自らの力だけで巣を作ることから、立身出世の象徴とされてきました。
しかし実際に巣を作られるとどうなるのでしょうか?
ヒヨドリに限らず鳥に巣を作られることは困る原因にもなります。ヒヨドリの鳴き声は大きいため、騒音に悩まされることは間違いありません。さらにフンによる被害も無視できない問題です。
そのため巣を作られないようにするための対策が必要になります。
ヒヨドリは樹上に巣を作るため、ヒヨドリが入れないような目の細かい防鳥ネットを庭木にかけましょう。釣り糸などのナイロン糸を枝に巻き付けたり、周囲につるしたりするのも効果的です。
ヒヨドリの仲間
日本にいるヒヨドリは2属8亜種
ヒヨドリはスズメ目ヒヨドリ科の鳥ですが、さらにシロガシラ属とヒヨドリ属に分かれます。ヒヨドリ属には8亜種が属し、一般にヒヨドリと呼ばれている鳥はこのヒヨドリ属の基亜種です。日本に生息する主なヒヨドリの仲間をご紹介します。
ヒヨドリ
ヒヨドリ科ヒヨドリ属の基亜種でほぼ日本全土に分布します。多くの地域では留鳥ですが、場所により夏鳥や旅鳥、冬鳥になる点が特徴です。
シロガシラ
ヒヨドリ科シロガシラ属の鳥で、頭部に白い綿毛のような冠毛があります。全長は約20cmでヒヨドリより小柄です。
中国南部や朝鮮半島、台湾などが生息域で、日本では八重山列島や沖縄本島で見ることができます。ただし沖縄本島に生息するものは人為的に持ち込まれたのち繁殖したもので、固有種ではないという見解が一般的です。
リュウキュウヒヨドリ
その名の通りに琉球諸島や宮古諸島が生息域の亜種で、体長は27cmほどです。ヒヨドリと比べて全身がやや黒っぽく、頬からのどにかけて赤褐色の模様が入っています。
ハシブトヒヨドリ
小笠原諸島南部の火山列島(硫黄列島)が生息域の亜種で、その名の通りにくちばしが太い点が特徴です。
小笠原諸島にはオガサワラヒヨドリという亜種も生息していますが、このオガサワラヒヨドリが八重山諸島のヒヨドリにルーツを持つのに対し、ハシブトヒヨドリは伊豆諸島や本州のヒヨドリにルーツを持っています。
タイワンヒヨドリ
日本国内では沖縄県の与那国島だけを生息域にしているヒヨドリの亜種です。全身が黒やグレーの羽毛で覆われている特徴があります。
クロヒヨドリ
生息域は台湾や中国南部、東南アジアで、日本では1度だけ迷鳥として観測されたことがあるヒヨドリです。観測された場所は沖縄県与那国島で、定着はしていません。
その他のヒヨドリ
大東諸島に生息するダイトウヒヨドリ、トカラ列島や奄美諸島に生息するアマミヒヨドリ、与那国島を除く八重山諸島に生息するイシガキヒヨドリがいます。ちなみに名前にヒヨドリと付くものの、イソヒヨドリはツグミ科の鳥のため分類上は遠縁の鳥です。
ヒヨドリはムクドリと間違えられる?
ヒヨドリはよくムクドリと間違えられます。しかし両方を見比べてみると、大きさも姿も全く違う鳥です。
ヒヨドリはムクドリよりも大きく、尾羽も長いという特徴があります。ムクドリはヒヨドリほど尾羽は目立ちません。
ヒヨドリのくちばしは黒です。ムクドリのくちばしは黄色からオレンジ色をしています。
ヒヨドリは全体的に灰色をしていて、頬には赤褐色の特徴的な模様があります。ムクドリは顔は黒地に白い大きな模様があり、個体差も大きい鳥です。
ヒヨドリとムクドリは行動も違う
ヒヨドリは滅多に地上に降りることはありません。ムクドリは地上でよくエサを探しています。
ヒヨドリは木の上に巣を作る鳥です。ムクドリは隙間があれば、家のダクトなどにも巣を作ります。
ヒヨドリはホッピングと呼ばれる移動方法です。ピョンピョン飛び跳ねるように移動します。ムクドリはトコトコと足を交互に出して歩く鳥です。後は双方を見比べてみれば一発でわかるようになります。まずはヒヨドリ。
こちらがムクドリ。
迷ったときは尾羽と顔を見るとすぐわかります。
ヒヨドリは性格が悪い?
ヒヨドリはエサ台を独占する悪者?
ヒヨドリはエサ台に群がるスズメやメジロを追い払い、エサを独占する貪欲な一面を持っています。生きることを考えればエサの独占は大切なことです。しかしエサ台を用意してあげている方からすれば、ヒヨドリは困った鳥になります。
ヒヨドリはその優れた身体能力と賢さが厄介な鳥です。メジロなどの軽い小鳥用の釣り式エサ台にしても、器用なホバリングを見せてしっかりエサを食べていきます。
しかしそんなヒヨドリでも逃げる相手が。
ヒヨドリすら追い払う鳥というのがよく間違われる相手のムクドリです。彼らはさらに群れで集まってくるため、独占するだけでなく全て食べつくしてしまいます。自然の摂理とはいえヒヨドリだけ悪者にするのはかわいそうかもしれません。
とはいえこれはやりすぎ?な、ヒヨドリのエサ台独占の様子をこちらの動画でご覧ください。またヒヨドリはキジバトも苦手なようです。一方でキジバトがスズメには寛大に見える不思議な動画もどうぞ。
ヒヨドリは人懐こく飼うことが流行った時代もある
平安時代の貴族にとって、ヒヨドリは大人気のペットでした。愛鳥に名前を付けるようになったのもこの時代が最初でした。
その家自慢のヒヨドリを持ち寄って優劣を競う「鵯合(ひよどりあわせ)」という行事まで行われていたのです。
現在、行事の内容までは詳しく伝わっていません。しかし『百錬抄(ひゃくれんしょう)』という13世紀の歴史書には、上皇御所で「鵯合」が行われたという記録があります。
「鵯合」はその手順や参加者の座席の位置などが詳細に決められ、定められた様式に沿って行われました。このことから定例行事の一つと考えるのが自然です。
ヒヨドリの優劣の基準に関しての記載はありません。しかし江戸時代の鳥の飼育書である『呼子鳥(よぶこどり)』には、「子飼いのヒヨドリは他の鳥の声をまねる」と記載されているのです。このことから物まねをさせて競っていたことも考えられます。
我が家の庭にくるヒヨドリたちへ
我が家では毎年柿の実や南天の実、ときには蝋梅の花を食べるために遊びに来ているのを見かけます。柿の実に関しては一番出来をつまみ食いするライバルですが、南天や蝋梅に関しては、「まぁいいか」といった感覚です。
鳴き声も慣れっこですが、どうしても言いたいことがあります。
余計な雑木の種を運んでくるのはやめてください!庭の管理が大変です!