実桜(サクランボ)【実を楽しむ品種】
桜には花のほかに実も楽しむ品種もあります。いわゆるサクランボを楽しむ実桜という品種です。日本でサクランボというと佐藤錦が圧倒的ですが、他にもさまざまな品種があることをご存じでしょうか?実を楽しむ実桜について気まぐれに調べてみました。
実を楽しむための桜・実桜(サクランボ)
実桜(サクランボ)の基本情報
園芸分類 | 果樹 |
形態 | 落葉低中木【剪定時】 |
原産地 | 欧州東部~アジア西部 |
樹高 | 1~4m【剪定時】 |
開花期 | 3~4月 |
花色 | 白・ピンク |
収穫期 | 5~6月 |
耐寒性 | 強い |
耐暑性 | 強い |
実桜(サクランボ)とはどんな植物?
中国で生薬として栽培されるカラミザクラ(唐実桜)、イラン北部からヨーロッパ西部にかけて自生していたセイヨウミザクラ(甘果桜桃:カンカオウトウ)、アジア西部のトルコ近辺原産のセイヨウスミミザクラ(酸果桜桃:サンカオウトウ)があります。
セイヨウミザクラやセイヨウスミミザクラは古くから栽培されてきました。イギリスでは青銅器時代の遺跡からサクランボの種が発見されているほどです。
そんなサクランボの栽培が本格的になったのは16世紀ごろからで、17世紀にはアメリカ大陸にも伝わりました。
セイヨウミザクラが日本に入ってきたのは明治初期です。ドイツ人のガルトネルによって北海道に植えられた木が最初になります。その後、北海道だけでなく東北地方にも広まり、各地で改良が重ねられてきました。一方のカラミザクラは江戸時代に清から伝えられ、西日本でわずかに栽培されています。しかし木材として家具や彫刻などに使うためで、食用目的ではありません。
実桜(サクランボ)と普通の桜との違い
まず花の色があげられます。実桜の花は白とピンクです。花を楽しむ品種は白やピンク、濃紫色、中には緑色の花まであります。
次に実の充実ぶりも天地の差です。実桜はいわゆるサクランボになります。しかし花を楽しむ品種は実がなっても小さいままです。ほとんど膨らむことなく落果してしまいます。
そして一番の違いは花の付け根です。実桜の花の付け根は、年を重ねるごとにくびれができます。一方の鑑賞用の桜の花は、枝に直接付いているため特に変化はありません。
実桜は同じ場所に花を咲かせる特徴があります。つまり実桜にとってこのくびれは非常に大事な枝の一部です。この部分を折ってしまうと花が付かなくなってしまいます。
サクランボ狩りのときには、葉を木に残すように意識して採れば枝を傷めません。翌年のためにも注意して収穫しましょう。
※花を楽しむ一般的な桜についてはこちらをどうぞ
日本の実桜(サクランボ)の特徴
日本で栽培される実桜の大半はヨーロッパ系です。品種数は1,000種を超えます。
生食にされるのはセイヨウミザクラで、日本のサクランボもこの系統です。セイヨウスミミザクラは酸味が強いため、調理用に用いられます。
セイヨウミザクラのほとんどの品種は自家不和合性の品種です。そのため自家受粉では実が生りません。別の品種との他家受粉が必要になります。
しかも品種が異なればよいというわけでもない点が厄介です。最低限として自家不和合性遺伝子型(S遺伝子型)と呼ばれる部分が異なる必要があります。そのためセイヨウミザクラの品種で自家受粉で結実するものはごくわずかです。一方のセイヨウスミミザクラは全ての品種に自家和合性があり、自家受粉で結実します。
実桜(サクランボ)の主な産地
農林水産省の作況調査(果樹)によると、令和3年度(2022年度)のサクランボの収穫量は以下の通りです。
1位 山形県 9,160トン(全体の70%)
2位 北海道 1,500トン(全体の11%)
3位 山梨県 942トン(全体の7%)
統計にも出ているように、実桜(サクランボ)は寒冷地を好む傾向があり、北日本での栽培が適しています。
西日本などの暖地で栽培するなら、温かい地域でも育てやすい暖地桜桃がおすすめです。
実桜(サクランボ)の花言葉
「小さな恋人」「善良な教育」「上品」「幼い心」「あなたに真実の心を捧げる」です。いずれも実が生ったときの様子から付きました。
実桜(サクランボ)の代表品種
実桜(サクランボ)は大きく分けると3品種
サクランボの品種としての実桜は、大きく分けて3つの系統に分かれます。セイヨウミザクラ、セイヨウスミミザクラ、そして別名中国桜桃(ちゅうごくおうとう)とも呼ばれるシナノミザクラ(支那実桜)です。
日本で栽培されているほとんどのサクランボはセイヨウミザクラになります。
日本で栽培されている主な実桜(サクランボ)の品種
高砂(たかさご)
アメリカ原産の早生種で「伊達錦」の別名でも有名です。
真っ赤でつやっぽい果皮が特徴で、乳白色でジューシーな果肉を持っています。甘みと酸味のバランスがよいだけでなく、授粉樹としても人気の品種です。
ジャボレー
フランス原産の早生種で、ナポレオンや佐藤錦の授粉樹として人気の品種です。味は酸味が強くて甘みもそれほどないため、ジャムやワインなどの加工品に使われています。
佐藤錦
ヨーロッパ原産の「ナポレオン」とアメリカ原産の「黄玉」を掛け合わせて作られた中生種で、日本原産のサクランボの代表品種です。つやがあり黄色がかった赤い実は、別名「赤いルビー」の別名を持ちます。国内生産量が最も多い品種で、果肉は甘みが強くてコクがあるのが特徴です。
紅きらり
近年登場した中生種で、自家受粉でも実付きがよい品種です。受粉樹として別の木を必要としないことから、一般家庭でも植えやすい品種といえます。
果肉はさっぱりとした味わいです。
紅秀峰(べにしゅうほう)
佐藤錦と天香錦(テンコウニシキ)を掛け合わせて作られた晩生種です。
果実は9~10gと大粒でハート形をしています。甘みも強く食べごたえのある品種です。果皮の濃い赤色も特徴で、他の品種と比較しても目を引きます。
ナポレオン
18世紀初期からヨーロッパを代表する晩生品種です。佐藤錦の授粉樹としても人気があります。果肉は硬めで酸味が強く、果汁が多いのが特徴です。ジャムやシロップ漬け、リキュールなど、加工用として利用されています。
月山錦(がっさんにしき)
中国の大連市で生まれた品種で、一大生産地の山形県でも幻とされる晩生種です。ほとんど市場に出回らない希少品種になります。
鮮やかな黄色い果皮をしていて果肉は甘く、酸味はほとんどありません。一粒10~15gと大粒の品種ですが、木1本あたりの収穫量は少なめです。
実桜(サクランボ)の育て方
品種の選び方
まずはどの実桜を植えるか決めましょう。
適切に剪定をして樹形を整えていても、通常はそれなりに大きくなる木です。授粉木も含めて2本植えられないようなら、自家受粉する品種を選びます。
もしくは授粉木を鉢植えで小ぶりに育てるのも選択肢です。また授粉木が接ぎ木されて、2種類の花が咲くように調整された苗も売られています。
組み合わせとしておすすめは、「佐藤錦」もしくは「高砂」と「ナポレオン」、「紅秀峰」と「佐藤錦」などです。
自家受粉で結実する実桜からは、「暖地桜桃」「紅きらり」「さおり」あたりがよいでしょう。
植え付け場所
実桜は日当たりと風通しのよい場所を好みます。
ただし風当たりが強すぎる場所は避けてください。葉や花が落ちるなどの害があるので要注意です。
土
実桜は水はけ、水持ちともによい土を好みます。
市販の培養土でもよいですが、自分で配合するときには小粒の赤玉土7~8に対し、腐葉土を2~3混ぜるのがおすすめです。
植え付け
鉢植えの場合
実桜の植え付けは12~3月の厳冬期を避けて行います。
鉢植えで育てる場合は7~8号の鉢に収まるように育てることが大切です。苗も大きすぎないものを用意しましょう。
まずは鉢底にネットと軽石か鉢底土を敷きます。鉢底から1/3~1/2ほど土を入れ、苗は根元を軽くほぐしてください。
苗を鉢の中心に置いて周りに土を入れていきます。縁を時々叩いて、土を根の中まで行き渡らせましょう。
鉢の縁より2cmほど下までしっかりと土を入れたらたっぷりと水をあげます。
株がしっかり固定されているのを確認したら、植え付けは完了です。株が安定しないようなら支柱を立てて固定してください。
地植えの場合
実桜の植え付けは鉢植えと同じく12~3月の厳冬期を避けて行います。
地植えのポイントは、根張りのよい植物なので大きめに穴を掘って根を張りやすいよう土を耕しておくことです。
理想としては直径80cm、深さ60~80cmの穴を掘って、元肥として腐葉土や堆肥をすき込みます。土と肥料がなじむまで1~2週間寝かせましょう。
2本植える場合の株間は4~5mです。
植え付けるときには穴の中心に苗を置き、周りから土をかけます。苗は根元の土を軽くほぐしておいてください。時々苗を軽く揺さぶって、土が根の中までしっかり入るようにします。
植え付け終わったら株元にワラやマルチシートを敷いて、乾燥から根を保護して完了です。苗の高さにもよりますが、植え付け時に50~70cmに切り戻すと樹形を仕立てやすくなります。切り口には癒合促進剤を塗って雑菌から保護しましょう。
水やり
地植えの場合は、夏に2週間以上雨が降らないような場合を除いて水やりは不要です。鉢植えの場合は、土の表面が乾いたときに底から流れ出るまでたっぷりと水をあげます。
肥料
地植えの場合は2月と10月に、鉢植えはさらに5月頃にも肥料を施します。
発酵油かすをはじめとした有機肥料や、リン酸を多く含んだ化成肥料を与えてください。
植え替え
鉢植えの場合は通常2~3年に1回、植え替えをします。伸びすぎた根や古い根を切り落とし、根詰まりを防ぐとともに土の通気性をよくする目的です。
木が大きくなりすぎたときには1回り大きい鉢に植え替えます。大きくしすぎないためには、剪定で枝が伸びすぎるのを防ぐようにしましょう。
剪定
実桜の剪定は最低限にするとともに、切り口には癒合促進剤を塗って病気感染を防ぎます。
12~2月と7月下旬~8月が剪定の適期です。伸びすぎた枝や混みあった枝を選んで切り落とします。
特に夏の剪定は感染症にかかる危険性が高いです。切った後は必ず癒合促進剤を塗りましょう。
不要な枝を落とし、伸びすぎた枝を切りそろえることで、コンパクトな樹形を維持できます。大きくしすぎないためにも剪定は欠かせません。
人工授粉
1本だけでは実を付けない品種の場合、人工授粉をする必要があります。
花が「五分咲き」「満開」になった時に、実をならせたいミザクラの雌しべに、もう一方の花の花粉をつけましょう。
人工授粉は筆や綿棒を使えば簡単に行えます。相性のよい品種を育てておくと安心です。
摘果
授粉がうまくいくと実桜が鈴なりで実を付けることがあります。
しかしあまりにたくさんの実をつけすぎると、体力を消耗して弱ってしまう危険性が。
また栄養が分散されてしまうため、実の味も落ちます。摘果して美味しい実にするとともに、木の健康も維持しましょう。
摘果の目安は1か所につき2~3個、できのよい実を選んでほかは摘み取ります。
またサクランボは雨に当たると裂けてしまう果実です。熟す時期が梅雨時なので、雨除けとしてビニールを被せておきます。
さらに鳥や虫にも狙われるため、ネットで保護しておきましょう。
収穫
5月中旬~6月中旬になるとサクランボの季節です。
実桜は開花後15~20日で実がふくらみ始め、40~50日後には色づいてきます。全体が真っ赤になったら収穫です。
実がついているコブを傷めないよう注意しながら、はさみや手で収穫しましょう。
増やし方
種まき
種まきの適期は3~4月です。ただし実桜は発芽率が低く、実を付けるまでにも数年かかります。また味も劣ることが一般的です。
発芽率を上げるためには種についたヌメリをキレイに洗い流します。さらに水につけて1日放置し、浮いた種は取り除いて種まきしましょう。
発芽を促すには湿度を保ち、低温に当てる必要があります。ただし土が凍らないように注意が必要です。そのため遅霜の心配がなくなってから種まきするとよいでしょう。
接ぎ木
実桜の一般的な増やし方で、3~4月か7~8月に行います。ただしそれでも根付く確率は10%ほどしかありません。
台木や穂木に何を使うかで接ぎ木のやり方が異なるため、プロでもないとおすすめできない方法です。
増やすなら購入するのが一番
いずれの方法でも実梅は増やしにくくて品質も保証できません。そのため実桜を増やすなら苗を購入しましょう。
病害虫
病気
実桜に限らず桜は病気が多い植物です。灰星病や褐斑病、炭疽病、胴枯れ性などに注意しましょう。
灰星病や褐斑病等は葉に現れます。褐色の斑点が出た葉は摘んで処分してください。その後、トップジンM水和剤などを散布して拡大を防ぎます。胴枯れ性の病気は枝が枯れてくるのが特徴です。菌に感染することで起こる病気なので、剪定したときには忘れず癒合促進剤を塗って保護しましょう。
害虫
シンクイムシ、アブラムシ、コスカシバ、カイガラムシなど、数多くの害虫がつきます。
シンクイムシはせっかくの実を食い荒らすため要注意です。
コスカシバは幹に食い入って木を枯らすこともあります。
アブラムシやカイガラムシは、新芽や枝から樹液を吸って木を弱らせる天敵です。実桜は1年中何らかの病害虫が発生すると思って、手入れをする必要があります。そのため病気の発生もあわせると、実桜は難易度が高めの果樹です。
木になる赤い宝石
さまざまな実桜(サクランボ)を紹介してきましたが、日本での実桜の歴史は意外と短いものです。それでもすでに世界的に高い評価を受ける品種を数多く生産しています。
日本でもサクランボが嫌いという方は滅多にいないはずです。
花の季節もサクランボの季節も短い実桜ですが、その人気が衰えることはないでしょう。