メグロ【旅行先で出会った固有種】
※写真版権:流浪の鳥撮り研修医様
クジラの親子を見に小笠原諸島の母島に行ったときのこと。人通りが全くない道の真ん中に、この島ならではの鳥がヒラリと降りてきました。小さな緑の体をした固有種のメグロ。このメグロについて気まぐれに調べてみました。
メグロってどんな鳥?
概要
メグロの特徴をまとめると以下になります。
科目 | スズメ目メジロ科メグロ属 |
体長 | 14cm |
体重 | 15g |
翼長 | 7cm |
体色 | 雌雄同色 ・目の上下に白いアイリング(目の端でつながっていない) ・アイリングの外回りに三角形の黒い模様 ・両目の黒い模様は額でつながりT字を描く ・顔と腹は黄色 ・頭の上は緑や緑褐色 ・首の後ろから背中、尾羽の上部は暗緑色や黄褐色 ・体側面は緑褐色 |
メジロの近縁種・メグロ
メグロはスズメ目メジロ科のメジロの近縁種の鳥です。現在のところメグロ属に属する鳥は1種だけ。それだけ貴重な鳥です。
かつてはどの鳥の仲間かと論争の種でした。ヒヨドリ科、チメドリ科、ミツスイ科など二転三転した経歴があります。
はっきりしたのは1990年代半ばです。DNA解析により、小笠原諸島のさらに南のマリアナ諸島南部に住む、オウゴンメジロが最も近縁とわかりました。
そのため現在はメジロ科メグロ属となったのです。
※メジロについて詳しくはこちらをどうぞ
メグロの名前の由来
メグロは目の周りに三角形の黒い模様があり、これが名前の由来です。
一方でメジロの仲間らしく、黒い模様の内側にある目の周りに、白くて細いアイリングもあります。このアイリングは小さな羽毛です。
メジロと違う点は目の前後でつながっていないこと。白い羽毛の線は目の上下で分かれています。
メグロの鳴き声
本土では聞けないメグロのさえずりはこちら。ぜひ聞いてみてください。
メグロの生態
※画像版権:yascolo様
メグロの特徴
メグロの生態をまとめると以下になります。
分布 | 東京都小笠原諸島の母島・向島(むこうじま)・妹島(いもうとじま) |
分類 | 留鳥 |
生息域 | 常緑広葉樹林 |
食性 | 雑食 昆虫・クモ・果実・花粉など【英語名honeyeater】 |
天敵 | 猫など人間が持ち込んだ生き物 |
性格 | ・気性は荒め ・メジロには寛大 ・攻撃的【繁殖期は見境なし】 |
寿命 | 約10年 |
メグロは小笠原諸島でも限られた島にしかいない
メグロは小笠原諸島の数ある島の中でも母島と向島、妹島だけにいる鳥です。そのため、メグロは「ハハジマメグロ」と呼ばれることもあります。
メグロはほとんど移動しない鳥
メグロの生息域である母島・向島・妹島は、飛ぶ鳥にとっては大した距離ではない数kmの距離しかありません。しかし2008年に発表された資料によると、メグロはこれらの島々を行き来することがほとんどないことがわかったのです。
それどころかすでに飽和状態といえる母島内部でも、ほとんど移動しないことがわかっています。慣れ親しんだ土地から離れたがらない保守的な性格をしている鳥です。
そのため各島のメグロの遺伝子には大きな違いがあります。母島・向島・妹島それぞれの島でしか見られない固有の配列が見つかりました。
向島のメグロと妹島のメグロとでは、すでにくちばしの形状にも違いが生じているのです。
つまりすでに向島と妹島のメグロは、母島のメグロとは別種といってもよい特徴を示し始めていることになります。このことからわかることは、どこか1つの島の個体群だけを保護しても無意味ということです。各島の保全が重要な課題になっています。
メグロには絶滅した個体群もいる
メグロにはかつて別の個体群もいました。同じ小笠原諸島の父島・媒島(なこうどじま)・聟島(むこじま)の個体群です。ムコジマメグロとも呼ばれる亜種とされ、1930年以降は確実な発見例がありません。戦争が原因で絶滅したと考えられています。
小笠原諸島にはメジロもいる
母島にはシチトウメジロやイオウトウメジロ、その2種の交雑種のメジロも住んでいます。メグロと思ったらメジロだったということも珍しくありません。
緑の小鳥を見たら、まずは目の周りの模様をしっかりチェックしてください。ということで、こんな動画はいかがでしょうか。メジロとメグロ、両者のお食事が見られます。
メグロの繁殖
メグロの繁殖の特徴
メグロの繁殖形態をまとめると以下になります。
繁殖期 | 4~6月 |
つがいの形態 | 一夫一妻制 |
行動範囲 | 約0.2ha(約145m×145m) |
営巣場所 | 高さ2~12mの高さの枝上 |
巣の形・材料 | おわん状 材料:枯れ葉・樹皮・コケ・羽毛・獣毛など |
抱卵担当 | つがい |
子育て担当 | つがい |
卵の数 | 2~4個【青い色で褐色斑が入る】 |
孵化までの日数 | 10~14日 |
オスがさえずるのは日の出前の早朝がほとんどです。日中にさえずることの少ない珍しい習性を持っています。
また巣立った後の家族期間も長い鳥です。成鳥とまったく区別がつかないくらいになってもエサをねだる幼鳥の様子が観察されています。
メグロはつがいのつながりが強い鳥
メグロはつがいになると周年一緒に行動します。メジロの仲間らしく寝るときはつがいで身を寄せ合って眠る鳥です。またお互いに羽繕いをする様子も見られます。
つがいは仲のよい鳥ですが、ほかのメグロにはなかなか厳しい性格です。メジロには攻撃しませんが、若鳥には攻撃する様子が見られます。そのためメジロの群れに混ざる若鳥も珍しくありません。
一方で繁殖期以外には群れを作ることもあります。
メグロは特別天然記念物
※画像版権:yascolo様
メグロの生息数は減っている
母島列島ではメグロは一般的な鳥ですが、生息数は減少しています。ムコジマメグロのように絶滅してしまった個体群がいることも事実です。
そのためメグロ(ハハジマメグロ)は1969年には国の天然記念物に、さらに1977年には特別天然記念物に指定されました。
ハハジマメグロは1993年の「種の保存法(絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律)」施行をきっかけに、国内希少野生動植物種に指定されています。ちなみにハハジマメグロは絶滅危惧IB類に指定されているほどで、数は決して多くはありません。
いつかまた会いに行きたい鳥
※画像版権:mizukawa様
初めて母島に行ったときはゴールデンウィークの直前でした。目的はクジラの親子を見ること。実際に案内してくれた船頭さんが驚くほど、クジラの親子の素晴らしいパフォーマンスを見ることができたのはよい思い出です。
そのためメグロと出会えたのはわずか2回ほどだったと記憶しています。しかしかわいらしい仕草がとても印象的でした。
今度母島に行く機会を作れたら、もっとしっかり観察してみたいです。
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