キジバト【庭にくる鳥たち】
キジバトはその時々で1羽だったりカップルだったりと、大きな群れを目にすることがない鳥です。ですが電線の上や地面で、オスがメスに熱烈なプロポーズをしている様子も見られます。そんなキジバトについて気まぐれに調べてみました。
キジバトってどんな鳥?
キジバトの特徴
キジバトの特徴をまとめると以下になります。
科目 | ハト目ハト科キジバト属 |
体長 | 約33cm |
体重 | 約230g |
翼開長【翼を広げた長さ】 | 約55cm |
体色 | 雌雄同色 ・茶褐色から紫灰色 ・翼に黒と赤褐色のうろこ状の模様 ・首の側面に青と白の横縞模様 |
別名はヤマバトといい、奄美大島や沖縄に亜種のリュウキュウキジバトがいます。
キジバトの鳴き声
鳴き声は一般的に「デデッポッポー」と表現されます。しかしこの他にも「クックーポーポー」や、「ホーホーとフクロウのような鳴き声」など表現はさまざまです。
オスが縄張りを主張したり、メスを誘ったりするためのさえずり声をぜひ聞いてみてください。あなたにはどちらに聞こえるでしょうか?
人によっては「この声か!」と思うかもしれません。
キジバトの名前の由来
見た目がキジのメスに似ていることから、「キジバト」と呼ばれるようになったといわれています。
ハトが「ハト」と呼ばれる理由
諸説ありますが、飛ぶときの羽音が「ハトハト」と聞こえることから「ハト」です。
キジバトが飛び立つときには、確かにほかの鳥より羽音が大きく聞こえます。急に飛び立たれるとびっくりするほどです。
そんな大きな羽音には、仲間に危険を知らせる信号の役目があるとする説もあります。
キジバトの生態
概要
キジバトの生態をまとめると以下になります。
分布 | ユーラシア大陸東部・日本 |
分類 | 留鳥【北海道や本州北部では夏鳥】 |
生息域 | 平地から山地の明るい森林・都市部 |
食性 | 雑食【果実や種子、昆虫、ミミズなどのほか貝類など】 |
性格 | 警戒心が強い |
天敵 | 猛禽類やカラス、イタチ、猫など |
寿命 | 野生環境下では10年未満、飼育下では10~20年 |
カルシウムの補給のため貝類なども捕食します。
最近の傾向として、猛禽類などに襲われにくい都市部での繁殖が目立つようになりました。
キジバトとドバト、何が違う?
ドバトとは飼育されていたカワラバトという品種が野生化したものです。そのため色もさまざまな個体がいます。
ドバトに共通する特徴は、胸が緑や紫など複雑な光彩を放つことです。またキジバトのようなうろこ模様もありません。見分けるときにはこの点が目安となります。
ほかではドバトが大きな群れを作るのに対し、キジバトはつがいでの行動が一般的です。
さらに人に対して警戒心の強いキジバトは、自分から人によってくることはまずありません。
ドバトとキジバトには、見た目だけでなく行動にもさまざまな違いがあります。
キジバトの繁殖
キジバトの繁殖の特徴
キジバトの繁殖形態をまとめると以下になります。
繁殖期 | 1年中【ピークは8~9月】 ・夏鳥の地域では夏のみ |
繁殖回数 | 3~4回【環境がよいと6~8回という記録もあり】 |
縄張りの広さ | 150m四方【2ヘクタールほど】 |
つがいの形態 | 一夫一妻制 |
営巣場所 | 樹上の枝や人工物の上など、地上1~10mのところ |
巣の形・材料 | 小枝を粗く組んだ浅い皿型 |
子育て担当 | つがい |
卵の数 | 2個 |
孵化までの日数 | 15~16日【昼はオス、夜はメスが抱く】 |
巣立つまでの日数 | 約15日 |
キジバトの繁殖(補足)
キジバトは8~10月をピークとして1年中繁殖します。留鳥として過ごしている京都で、年間を通して繁殖した記録が残っているのです。
キジバトはオスが持ってきた素材をメスが組んで巣を作ります。巣作りはかなり雑で、下から見上げると上が透けて見えるくらいシンプルです。他の鳥の巣を再利用することも珍しくありません。
そうして用意した巣に、メスは通常2個の卵を産みます。巣の作りは粗雑ですが、卵の数が少ないため温度管理に問題は起こりません。そのためきちんと孵化します。
キジバトはおおよそ30~35日のサイクルで1回繁殖を行うことができる鳥です。そのため繁殖力は強いといえます。
キジバトの繁殖回数はかなり多い
京都での観察記録では、多くのつがいが年に複数回繁殖を行っていました。中には6~8回も繁殖したつがいがいたといいます。
何らかの理由で繁殖に失敗した場合などには、あっさり相手を変えることも珍しくありません。キジバトはつがいのつながりがかなり弱い鳥です。そのためオスは必死で縄張りを守り、メスに求愛します。オスの求愛の様子をぜひこちらの動画でご覧ください。
北海道や北日本ではキジバトの繁殖は夏だけ
4~10月までの間、複数回繁殖していることが確認されています。その前後は越冬のため南下していますが、越冬先で繁殖している可能性も否定できません。
繁殖できる条件さえ揃っていれば常に子育てし続ける。キジバトはたくましい鳥なのです。
キジバトが1年中繁殖できる理由
キジバトが他の鳥と異なり1年中繁殖できる理由は、ヒナに与える餌が特殊なためです。
通常は親鳥の主食に関係なく、ヒナに栄養価の高い昆虫などを与えます。そのため虫が多くなる春から夏が子育てシーズンです。
しかしハトはヒナに「ピジョンミルク」と呼ばれる餌を与えて育てます。
このピジョンミルクは、穀物や種子など植物質の餌を一時的に溜めておくための器官「そのう」で作られる物質です。この「そのう」の内側を覆う細胞が剥離(はくり)して、牛乳に近い組成を持つピジョンミルクになります。
ピジョンミルクはオスも作れる物質です。しかもこのピジョンミルクには、ヒナの成長を促進する成分が含まれていると考えられています。
他の鳥にはない手段で、ヒナの成長に欠かせないたんぱく質を確保した。これこそキジバトが1年中繁殖できる理由です。
キジバトは営巣地の決定権をメスが持つ
巣の候補地探しはオスの役目です。しかしキジバトのメスは気に入らない場所では営巣しません。オスはメスが巣の場所を決めるまで候補地を探し続けます。
キジバトが繁殖に失敗する一番の原因が、卵やヒナを天敵などに食べられてしまうことです。カラスや猫、蛇などが主な天敵になります。
カラスにヒナを取られた観察例で、親鳥は抵抗せずにただ逃げただけでした。後はまた次の繁殖に移るだけです。
このことからヒナを取りにきた者がいた場合、親鳥にはなすすべがないのか、あるいは抵抗する気もないのか、どちらかだとみられます。つまりヒナを狙う者が現れた時点で、キジバトの子育ては失敗です。そうならないためにメスは気に入る場所が見つかるまで営巣しません。
キジバトにとっての営巣地の重要性
キジバトが古巣を再利用する理由は、他の天敵にヒナを襲われずにすんだ実績からという説が一般的です。そのためキジバトは同じ場所に巣を作りたがります。そんなキジバトの巣作りからヒナが巣立つまでを記録した貴重な動画です。ぜひキジバトの子育ての一部始終をご覧ください。
キジバトは幸運の鳥?
幸運の鳥といわれる理由
古くからキジバトが家に巣を作るのは縁起のよいこととされてきました。
その理由はキジバトの生態にあります。キジバトは夫婦で力を合わせて子育てをするためです。そのため家にキジバトの巣ができると、夫婦円満や家内安全といった幸運を招いてくれるとされました。さらに風水の観点からも鳥が家に住み着くことは最高の幸運とされています。鳥は天の使いとして見られているためです。結果として、その鳥が住みかとして選んだ家にはよい気が溢れているとされます。
世界でもハトは幸運のシンボル
ハトが幸運のシンボルとなった理由には諸説あります。有力な説は『旧約聖書』にある「ノアの箱舟」という物語に由来するというものです。
この中で主人公のノアが陸地はないかと調べるためにハトを放しました。するとそのハトがオリーブを持って帰ったのです。おかげで陸地が残っていることが判明しました。
この逸話がもとになって、ハトは平和の象徴としてたたえられるようになったとされています。
キジバトは害鳥?
キジバトの農業における被害
農林水産省によると、2020年度(令和2年度)の農業被害額はドバトも含めハト全体で8600万円でした。【全国の野生鳥獣による農作物被害状況について(令和2年度)】
名前があげられるような害鳥たちと比較すればこれでも少額です。しかし馬鹿にならない金額なのは間違いありません。
農業面だけでもキジバトは害鳥と見られる鳥です。
家にキジバトの巣を作られても困る
まず場合によっては1年中騒音に悩まされます。ハトは求愛行動で鳴くことも多く、さらに1年を通して繁殖できる鳥だからです。そのため毎日のように鳴き声や羽音に悩まされる可能性があります。
特にキジバトは早朝の時間帯に鳴くため、近所も巻き込む騒音問題にもなりかねません。また1年中繁殖できるため、抜けた羽や蓄積されたフンが飛んでくるなどの被害も発生しやすいです。車や家の窓ガラスなどが汚れるだけでなく、健康被害も起こる可能性があります。
馬鹿にならないキジバトのフン害
フンには雑菌が繁殖しやすい問題があります。深刻な健康被害をもたらす可能性のある菌の増殖を、助けてしまう可能性が高いのです。そのため一説にはハトのフンに触れるだけで、60種類以上の感染症やアレルギーを引き起こす可能性があるといいます。
キジバトを追い出すには?
巣の除去だけではキジバトは出ていってくれない
キジバトは帰巣本能の強い鳥です。一度巣を作ると同じ巣を何度も使います。日本鳩対策センターによると、繁殖時に使われる巣の約43%が古巣だったというのです。
さらにキジバトは、ただ巣を取り除いただけでは何度でも戻ってきて新しい巣を作ります。そのためキジバトに出て行ってもらうためには、古い巣を取り除くだけでは不十分です。新しい巣を作られない対策が必要不可欠となります。
キジバトを家に寄せ付けない方法
キジバトに危険と思わせることが出来れば、巣を作られることはありません。そのためキジバトの状態に合わせて、寄り付かなくなる道具を使うようにします。
一番よく使われる道具は防鳥ネットです。ベランダなど建物の開口部に張り巡らせます。
注意点はキジバトが羽をたたむと意外と体が小さいことです。そのためわずかでもすき間があると、そこから中に入ってきてしまいます。
防鳥ネットを張るときには、上下・左右共にたるみが出来ないよう、しっかりと留めるようにしましょう。
ネットのほかには?
停止防止器具や侵入防止器具も有効です。キジバトが留まりそうなところに設置することで、休んだりフンをしたりするのを防ぐ効果があります。
ただしハトの休む場所は人の手だと届きにくい場所が多いものです。そのため設置難易度は少々高めなのが難点といえます。さらに隙間なく設置しないと効果が期待できない場合もあるのです。
この他ではキジバトの体に触れることで不快感を与える防鳥ワイヤーや、不快な臭いや味で追い払う忌避剤などもあります。ただしこれらの方法は巣を作られた後では効果が薄いです。巣を作られる前に対策しましょう。
キジバトに巣を作られてしまったときは?
もし巣を作られてしまった場合には、まずは自治体の関係部署に連絡を入れます。マンションなど集合住宅に住んでいる場合には、管理会社にも連絡を入れましょう。
キジバトを個人がむやみに駆除しようとしてはいけません。「鳥獣保護法(鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律)」に違反する可能性があります。
各場所に連絡を入れたら、ハトの駆除を請け負っている業者に連絡を入れてください。個人宅の場合は自治体が紹介してくれる場合があります。集合住宅の場合は管理会社に依頼してもらうとよいでしょう。
キジバトは高級食材?
キジバトは法律で狩猟鳥として認められている
キジバトは1日10羽までという制限はありますが、火薬を使わないエアライフルでも狩れる人気の狩猟鳥です。
実際に狩るとなるとなかなか難しく、禁猟区に住むキジバトと違い、飛びたつときにもほとんど羽音をたてません。さらに木に留まるとすぐに動きを止めて、景色に同化してしまうという賢さを持っています。
それでもキジバトは昨今の狩猟ブームも手伝って、人気の高い狩猟鳥です。
キジバトが狩猟鳥として人気の理由
キジバトは味のよさに定評があります。フランス料理でもハトが人気の食材であるように、 焼き鳥や唐揚げ、ただ焼いて塩だけでシンプルに味付けても美味しい高級食材です。
脂肪分が少ないのにジューシーで、鶏肉というよりも牛肉に近いという方もいるほど。食材としても人気の高さがうかがえます。
キジバトの狩猟には許可が必要
まずは使う猟銃を所持する許可をとる必要があります。これにはさまざまな試験や講習をクリアして、最終的に警察へ猟銃の所持許可を申請するのです。
所持許可が下りれば銃を用意して次の申請を行います。猟をするためには毎年、狩猟を行いたい都道府県ごとに「狩猟者登録」の申請を行い、狩猟税を納める義務があるのです。
この狩猟者登録の条件には、3,000万円以上の共済または損害賠償保険に加入していることも条件になります。詳しくは環境省「狩猟ポータル」を確認してみると良いでしょう。
ドバトは狩猟できる?
残念ですがドバトは狩猟許可を申請しても捕まえることはできません。なぜならドバトは狩猟鳥に含まれていないからです。
ドバトはかつては狩猟鳥でした。しかし伝書鳩と間違えて撃った場合、「動物愛護法(動物の愛護及び管理に関する法律)」に触れるため除外されたのです。そのためキジバトと間違えて撃ってしまった場合は、鳥獣保護法違反で罰則が科せられることになります。家に巣を作られたからと手を出した場合も同様です。
我が家にくるキジバトたちへ
我が家のギンモクセイの中央に、一時期巣を作っていたキジバトのつがいがいました。
ギンモクセイの伸びすぎた枝を落としたら巣が外から丸見えに。それ以降は繁殖に来なくなってしまい、かわいそうなことをした気になったものです。
ですがもしまた利用する機会ができたら一つだけ気を付けてください。去年立派なスズメバチの巣ができて、業者さんを頼む羽目になりました。また巣を作られるかもしれないので、刺されないようにしてくださいね。