キジ【身近にいる鳥たち】
家の近くの河川敷を散歩中、川の反対側から2羽の鳥が並んで飛び出してきました。そのまま河川敷を飛び越え、その先にあった網に仲良く激突。2羽ともバツが悪そうに痛み分けとなったようです。その2羽の鳥がキジのオスでした。そこでキジについて気まぐれに調べてみました。
キジってどんな鳥?
キジの特徴
キジの特徴をまとめると以下になります。
科目 | キジ目キジ科キジ属 |
体長 | オス:約81cm メス:約58cm |
体重 | オス:0.8~1.1kg メス:0.6~0.9kg |
翼開長 【翼を広げた長さ】 | 約77cm |
体色 | 雌雄異色 オス ・翼と尾羽を除く基本色は鮮やかな緑色 ・頭部は青緑色でのど回りは青紫 ・左右の目の周りに肉質の隆起(肉垂:にくだれ) ・頭の左右に冠羽 ・背は褐色の斑がある濃い茶色 ・翼と尾羽は茶褐色(一部の尾羽に斑が入る) メス ・全身茶褐色 ・尾羽が長く、全身に斑模様 |
キジは実は分類でもめている鳥
キジはキジ目キジ科キジ属に分類されていますが、分類上でもめている鳥です。日本の個体群は日本固有の独立種とする説と、ユーラシア大陸のコウライキジの亜種とする説がぶつかっています。
もしコウライキジの亜種ならば「キジ属」という鳥は1種のみです。もし日本の固有種ならば「キジ属」はキジとコウライキジの2種となります。国際的な組織も含め、この論争は長きにわたって続いてきました。しかし2014年に遺伝子を解析した結果、キジは日本の固有種とする説が有力になっています。
コウライキジのオスとの違い
コウライキジは首に白い模様がある点が大きな違いです。さらに首の白い模様の下からは斑のある茶褐色で、腹は黒っぽい色をしています。
一方で日本のキジは基本色が鮮やかな緑のため、明らかに異なる体色をしていてわかりやすいです。
ちなみにこちらがコウライキジのオス。
こちらが日本のキジのオスです。
比べてみるとはっきりと違いが分かります。
キジは日本の国鳥
キジは日本の固有種である。すでにそう認めている国際的な組織もあります。「国際自然保護連合(IUCN)」などでは、2015年以降、すでにキジは日本の固有種の鳥です。
実際に2014年に国立科学博物館などがDNA検査をしたところ、コウライキジとは3~4%異なっていました。一般的には2%異なれば独立種として分類されるため、日本のキジは固有種となるのです。そんな中、日本鳥学会はキジはコウライキジの亜種としてきました。しかしもともとキジは日本の固有種と考えていたため、1947年3月の第81回例会で国鳥に選定したのも日本鳥学会です。
キジが国鳥になった理由
日本鳥学会が国鳥にキジを選定した理由は以下になります。
- 日本の固有種であって全国的に通年見られる
- オスの羽色が鮮やかで美しく、姿も立派
- メスの母性愛の強さが家族の和を象徴している
- 大型で肉の味が良い
- 狩猟の対象として好適
などの理由からだといいます。
なお国鳥を狩猟鳥にしている国はほかにありません。ましてや「美味しいから」などという理由も日本だけです。ただし日本鳥学会は政府機関ではないため、国鳥といっても非公式なのは救いというべきでしょうか。
日本鳥学会も再度キジを日本固有種として認めた
2014年の調査結果や専門家たちからの意見もあり、2022年9月発行の『日本鳥類目録第8版』にキジを固有種として追加すると発表しました。
日本の固有種が追加されるのはヤンバルクイナ以来、実に41年ぶりになります。キジは本来の立ち位置に戻ったわけです。
一方で分類上のごたごたはともかく、岩手県と岡山県で県の鳥にも指定されています。そのほかにも市や町のシンボルとしてよく使われている鳥です。
キジの鳴き声
「ケーンケーン」と数分ごとに大きな声で繰り返し鳴くのが特徴です。長い時には1時間半以上鳴き続けて必死で縄張りを主張します。
さらに「母衣打ち(ほろうち)」と呼ばれる行動もキジならではの仕草です。鳴いた後に翼を激しく震わせながら体に打ち付け、「ドドドドド」と羽音を立てます。
そんなオスの縄張り主張はこちらの動画をどうぞ。
ちなみにメスはこう鳴きます(動画参照)。
キジの名前の由来
鳴き声を「キギ」と表現し、さらに鳥を意味する接尾語の「シ」をつけて古名の「キギシ」となりました。さらにその「キギシ」が詰まって「キジ」になったもので、平安時代から使われてきた名前です。
古名には「キギス」もありますが、「キジ」よりも新しい言葉になります。
また漢字の「雉」は「隹(とり)」に「矢」を足して、「まっすぐ矢のように飛ぶ鳥」を意味したものです。
キジの生態
概要
キジの生態をまとめると以下になります。
分布 | 北海道と対馬を除く本州・四国・九州 |
分類 | 留鳥 |
生息域 | 山地から平地の林、農耕地、河川敷などの明るい草地 |
食性 | 雑食 主に草の種子・葉・目などの植物質、昆虫やクモなど |
性格 | ・警戒心が強く臆病 ・繁殖期のオスは狂暴 |
天敵 | 猛禽類・タヌキやキツネ・ヘビ・カラス・人間など |
寿命 | 約10年 |
一部のキジは放鳥されたコウライキジ
本来キジが生息していなかった地域でもキジの姿を見ることがあります。理由は狩猟目的でコウライキジが放鳥されたためです。本来キジがいない北海道や対馬、南西諸島などのキジは、このコウライキジが帰化したものになります。
キジは飛ぶのが下手
キジは鳥ですが、飛ぶことより走るほうが得意です。スピードを測ってみたら、時速32kmを記録したこともあります。このことからも地上での生活に適応した鳥といえるでしょう。
なお寝るときは危険を避けるため、ちゃんと木の上で寝ます。
キジの繁殖
特徴
キジの繁殖形態をまとめると以下になります。
繁殖期 | 4~7月 |
縄張りの広さ | 100×100m |
つがいの形態 | 多夫多妻制 |
営巣場所 | 草原・低木林・農耕地周辺の草むらなど |
巣の形・材料 | 地面を軽く掘り、枯れ草を敷いただけの簡素な巣 |
巣作り担当 | メス |
抱卵担当 | メス【オスは縄張り内の天敵を威嚇・排除する】 |
子育て担当 | メス |
卵の数 | 6~12個【褐色】 |
孵化までの日数 | 23~25日 |
巣立つまでの日数 | 0日【生まれてすぐ】 |
繁殖期のキジのオスは見た目にも変化が出る
オスの顔の肉垂はより大きく肥大して、さらに目立つようになります。この頃のオスは赤いものに敏感に反応して攻撃的になります。オス同士で縄張り争いをして、メスにアピールするためです。
そのため赤い服を着た人や、郵便局員などに突然襲い掛かることもあります。そこまでして頑張るオスのメスへの求愛行動はこちら。
キジのメスは乱婚性
一方のメスは何羽ものオスの縄張りを渡り歩き、交尾して回る乱婚性です。交尾をすませたメスは、自分とよく似た色の場所を選んで巣を作って卵を産みます。
キジのメスは母性愛が強い鳥です。天敵が近づいてきても卵を置いて逃げたりせず、じっと息を殺してやり過ごします。そのためこの時期のキジのメスは事故にあう確率が非常に高いです。キジがいることに気付かずに、草刈り機で頭を飛ばしてしまうという事故が起こることもあります。
キジの子育てはメスの担当
メスはときには天敵に攻撃し、己の身の安全を顧みず卵がかえるまでひたすら守り続けます。この愛情の深さから「焼野の雉子(キギス)、夜の鶴【子を思う親の情愛の深さの例え】」ということわざも生まれました。
オスは子育てには参加しませんが、代わりに縄張り内の天敵を排除するのに一生懸命です。
メスに守られて無事にかえったヒナはすでに目が開き、羽毛も生えています。歩くこともできるので早々に歩き回れるのが特徴です。
地上で同じ場所にとどまり続けるのは危険なのは間違いありません。そのためすぐに巣を離れられる状態で生まれてきます。
繁殖期にはヒナを連れたメスの姿が観察できますが、当然そばにオスはいません。メスは秋までずっと1羽で子育てをするのです。そのためキジは多くの卵を産みますが、無事に育つのは2~3羽ほどだといいます。
キジは狩猟鳥
キジは古くから狩りの対象だった
キジは古くから狩りの対象でした。食肉としても高貴とされ、鷹狩りの獲物としても人気だったのです。
現在でも「鳥獣保護法(鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律)」で狩猟鳥として認められています。
そのため狩猟鳥としての数を維持するために、数多くのキジが毎年放鳥されているのです。
放鳥されるキジには足環がつけられています。狩猟で足環付きのキジが捕獲された場合は、各自治体に届け出る仕組みです。
しかし放鳥した数に対して捕獲されるキジの数はほんの数羽だといいます。このことから養殖され放鳥されたキジのほとんどは、ほかの動物やワシなどの天敵に捕食されているとするのが定説です。
ただし現在も正確なことはわかっていません。
キジには狩猟制限もある
キジはヤマドリ・コウライキジを含めて1日2羽までと決まっています。
またキジの捕獲目的の放鳥獣猟区(積極的に放鳥している地区)以外では、メスは捕ってはいけません。
狩猟期間や狩猟許可区域にも決まりがあります。特に狩猟期間は自治体によっても異なることがあるため、確認は必須事項です。狩猟についての詳しい事柄は、環境省「狩猟ポータル」で確認するとよいでしょう。
キジには大陸から持ち込まれた一群も
キジは人気の狩猟鳥ですが、日本国内でも生息していない場所がありました。北海道や対馬などです。そこで大陸からコウライキジを輸入して放鳥しました。
現在では野生化が進み、帰化しています。狩猟鳥としてキジの数を確保するためにも放鳥されたため、コウライキジは北海道や対馬以外でも見られるのが現状です。
キジによる農業被害もある
キジが狩猟鳥に指定されている理由は古くからの人気だけではありません。令和2年度(2020年4月~2021年3月まで)のキジによる農業被害額は、農林水産省のデータによると2,045万円です。
鳥の中ではカラスやスズメ、ヒヨドリなどと比べてもかなり少ないですが、被害を受ける側にとっては害鳥には違いません。その点でも駆除対象として狩猟鳥であり続けているのです。
日本のキジの種類
4亜種が分布
日本にはキジが4亜種生息しています。
本州南西部や九州、五島列島にキュウシュウキジ、本州北部や佐渡島にキジ、伊豆半島や紀伊半島、三浦半島、伊豆大島、種子島、新島、屋久島にシマキジ、本州中部や四国にトウカイキジの4亜種です。
近年では各亜種の分布域が不明瞭化してきているため、再検討が必要になってきています。
交雑が進んで問題に
それぞれのキジの生息域が不明瞭になっている理由に、放鳥されたキジによる交雑があります。それぞれのキジの生息域に、異なる種類のキジが放鳥されたためです。
特にコウライキジによる交雑が目立ち、1個体に複数のキジの特徴を持つものも多く観測されています。
現在でも放鳥は続いていますが、どこにどの種類のキジがいるのかはっきりさせる必要があるのは事実です。早めの対策が求められています。
昔からなじみ深い鳥だったキジ
キジは昔話やことわざにも登場する
キジの登場する昔話といえば、真っ先に思い浮かぶのは桃太郎ではないでしょうか。そのほかにも石川県や長野県の民話など、キジが登場する話は数多くあります。
『万葉集』でもキジを詠んだ歌が6種あり、『徒然草』にもキジは登場するのです。
ことわざで有名なのは、「キジも鳴かずば撃たれまい(余計な一言で災いを招くこと)」でしょう。このことわざの元になったのは、大阪の「長柄(ながえ)の人柱」という話です。
この話を要約すると、川に橋をかけようとしたけれどうまくいかず、役人が土地の長者に相談します。すると長者は人柱を捧げればよいと助言しました。長者が言った人柱の特徴が長者自身だったことから、彼が人柱にされます。
後日、このことを知った長者の娘が、ショックで口をきけなくなりました。娘の夫が鳴き声を上げて飛んだキジを打ち落とすと、彼女は「ものいわじ 父は長柄の橋柱 鳴かずばキジも 射られざらまじ」と詠んだのです。この歌がことわざの語源になったといわれ、大阪では有名な伝説の1つとなっています。
キジは地震予知が得意?
キジの足の裏には振動を察知する感覚細胞があります。その感覚細胞のおかげで、人間が地震に気付く数秒前には、地震の初期微動を察知できるのです。地面の上で生活するからこその能力といえるでしょう。
しかしキジは地震の前夜に騒がしく鳴くことがあることでも知られています。
古くは江戸時代末の1847年の「善光寺地震」が有名です。数日前からキジがけたたましく鳴きさけんだことから、悪事の前触れとして噂になった記録が残っています。
2011年の東日本大震災でも、前日に気仙沼のキジが海鳴りの後に鳴いたという報告があるのです。「海鳴りの後にキジが鳴くと地震が起きる」という言い伝えがあった地元では、警戒する声もありました。これらのことから、単に振動を察知するレベルでないことは間違いありません。詳しい予知のメカニズムは解明されていないのが現実です。
キジは伝統的な調理法も多い
キジは古くから高級食材としても人気でした。伝統的な調理法も全国に数多くあります。現在でもその人気は高く、キジ料理のために養殖しているところもあるほどです。
それだけ馴染みの食材でもあったため、俗信なども各地にあります。
山形県では「癇癪(かんしゃく:短気)にはキジの黒焼きが効果あり」、愛知県では「羽を焼いたものを塗ると耳の痛みが治る」など、薬効をうたった俗信がありました。
一方で福岡県では「卵を食べると薬の効果が出なくなる」など、キジを食べると逆効果とする俗信もあるといいます。
民間療法としても広く効能が信じられていたことがうかがえる話です。
元気に鳴くキジたちへ
普通は警戒心が強いとされるキジですが、私の近所では結構身近で見ることができます。オス同士のケンカからメスとのデート、ヒナがメスを追いかける様子などさまざまです。
宅地化が進んでいるのが気になるけれど、いつまでもご近所さんでいたいね。