実梅【実を楽しむ品種】
我が家の近所には、花も見事ながら毎年立派な実をつける実梅の木があります。見ると羨ましくも感じますが、手入れが大変そうで手が出せません。そこで実梅について、気まぐれに調べてみました。
実を楽しむための梅・実梅
実梅の基本情報
園芸分類 | 果樹 |
形態 | 落葉高木 |
原産地 | 中国 |
樹高 | 2~10m |
開花期 | 1~3月 |
花色 | ピンク・白 |
収穫期 | 5月下旬~7月【地域差あり】 |
耐寒性 | 強い |
耐暑性 | 強い |
梅とはどんな植物?
梅は中国が原産とされるバラ科サクラ属の樹木です。日本に持ち込まれた経緯には諸説あります。朝鮮経由で入ってきたという話が一般的な説です。
『万葉集』では100を超える歌に登場する梅。このことから飛鳥時代には栽培が定着していたと考えられます。
中国原産でありながら、学名は江戸時代の日本語の発音に由来する「 Prunus mume 」です。英語名も「 Japanese apricot (日本のアンズ)」といいます。
日本人にとって特別な樹木であることは事実です。花も実も深く生活に根差していることは間違いありません。
実梅と花梅の違い
実梅はその実をさまざまに加工して利用するため品種改良されてきた梅です。それに対して花梅は、花を楽しむために品種改良されてきた観賞用の品種になります。
実梅は鎌倉時代に入ると梅干しとして重宝されるようになりました。しかし当時は薬として珍重されていて、現在とはおもむきが違っていたのも事実です。
そんな実梅は花も鑑賞に値する品種が数多くあります。そのため花も実も楽しめる梅として人気の高い庭木です。
ただし生のままの実には有毒成分があります。そのため加熱、もしくはアルコールや塩に漬け込まないと、食べることはできません。
※花梅についてはこちらをどうぞ
実梅の主な産地
令和3年(2021年)の梅の生産量は、農林水産省のデータによると以下の通りです。
1位:和歌山県 6万7500トン
2位:群馬県 5770トン
3位:三重県 1620トン
この年に生産された梅の65%が和歌山県産でした。
実梅の代表品種
南高梅(正式読み:なんこううめ)
「なんこうばい」と呼ぶことも多いですが、正式名は「なんこううめ」です。和歌山県原産で、日本で最も広く知られているブランド梅のひとつになります。
南高梅は明治35年(1902年)、和歌山県の上南部村(かみみなべむら)で高田貞楠(さだぐす))氏が内中梅の中から大粒の個体を発見したことから始まりました。
そのため当初は発見者の名前にちなんで「高田梅」と呼ばれていたといいます。
その後の昭和40年(1965年)に今の名前を決める出来事がありました。梅有料母樹選定調査に尽力した南部高校教諭の竹中勝太郎氏にちなみ、高田の「高」と「南高」をとって「南高梅」と名称登録されたのです。
南高梅の特徴は粒が平均25~35gと大きく、さらに肉厚であることがあげられます。またその皮の薄さと柔らかさゆえ、梅干しといえば南高梅といわれるほど梅干しにぴったりです。
もちろん梅酒や甘露煮など、利用価値の高い万能品種でもあります。
花の開花期は2月~3月で、花の色は白です。収穫時期は6~7月で、実は樹上で熟させます。
黄色や赤みがかった色に変化すると、やがて実が自然落下するため対策が必要です。地面につかないようネットを張って受け止め、収穫するとよいでしょう。
古城(ごじろ)
古城も和歌山県原産の梅の品種です。田辺市長野の那須政右ヱ門(まさえもん)氏が接ぎ木した苗木の中から生まれた品種といわれています。
そんな古城の名前の由来は、那須政右ヱ門氏の屋号が「古城(ごじろ)」だったからという説が一般的です。
古城は南高梅よりも少し小ぶりながら、1粒15~30gある大粒品種の1つです。
そして一番の特徴が青梅であるということ。その色味の美しさから「青いダイヤモンド」とも呼ばれています。
皮が丈夫で実の締まりもよく、硬めで実くずれしにくいため梅酒に最適の品種です。
そんな古城の開花期は3~4月で、花は白い色をしています。花の時期が遅めでありながら収穫時期は早く、5月下旬~6月初旬には収穫できるのが特徴です。
耐病性の強い性質ながら栽培は難しいとされ、生産量が減少し続けている貴重な梅でもあります。
白加賀(しろかが・しらかが)
その名の通りに北陸が原産の梅で、江戸時代からある歴史のある実梅です。現在の主要生産地は関東に移っていて、特に群馬県が主要産地になっています。
白加賀は実の大きさが25~30gと大粒です。さらに緻密で肉厚ながら繊維が少なく、梅干しに適しています。梅酒にもよく利用される万能タイプの実梅です。
日に当たった部分は熟すにつれて紅がさしますが、基本的にやや黄色がかった緑色をしています。
白加賀の開花期は3月上旬~下旬で、名前の通りに白い花を咲かせるのが特徴です。収穫時期は6月ごろに最盛期をむかえます。
竜峡小梅(りゅうきょうこうめ)
長野県飯田・下伊那地方原産の小梅の品種です。大正時代に当時の松川村(現在の下伊那郡松川町)で、梅の生産者だった大栗重寿氏の梅林で発見された品種といわれています。
竜峡小梅の名前は天竜川の峡谷である天竜峡からとられました。
竜峡小梅は小梅らしく3~5gほどしかありません。小梅の中では生産量が1位で、主にカリカリ梅に加工され流通している品種です。
白い花を咲かせますが、その開花時期はばらつきがあります。1月中旬~3月初旬ごろが一般的な開花期です。収穫時期は5月下旬~6月上旬ごろに最盛期をむかえます。
豊後(ぶんご)
名前が示すように大分県原産の実梅です。
杏(あんず)との自然交雑でできた珍しい梅で、実梅の中でも特に大きい実をつけます。その実の重さは30~40g。梅酒やカリカリ梅にも適した品種です。
豊後の生産量は、昔から原産地の大分県よりも青森県の方が多いという特徴があります。豊後が杏との交配種のため、梅の中で最も耐寒性が強いことが理由です。
開花期は2月中旬~3月上旬と遅めで、観賞用としても楽しめる、杏由来の薄いピンク色の花が咲きます。収穫時期は6~7月ごろが最盛期です。
実梅の育て方
植え付け場所
実梅は日当たりのよい場所を好みます。半日陰でも育ちますが、花付きに大きな差が出るのでおすすめできません。
また風通しのよい場所を好むものの、冬の寒風には要注意です。実梅にとって-5℃前後は寒すぎるため、ほとんど実を付けなくなる危険があります。気温が心配な場合は、開花期そのものが遅めの「白加賀」や「豊後」などの品種を植えるのがおすすめです。
土
鉢植えにする場合は、水はけ、水持ちの両方がよいことが大切です。それ以外の理由では特に土を選びません。
小粒の赤玉土7~8に腐葉土を3~2混ぜたものを使うか、市販の培養土でもよいでしょう。
地植えの場合は、水はけのよい場所を選べば問題ありません。
植え付け
鉢植えの場合
休眠期の11~2月ごろに行います。
鉢底土を入れたら鉢の半分ほど土を入れます。その上に根を広げて苗を立て、さらに土を入れてください。
注意点は苗の根元付近にある、ぷくっと膨らんだ接ぎ木部分を埋めないことです。地上に出るように浅く植え付けます。
植え付けたら苗の主幹を1/3ほど切り詰めましょう。勢いのよい枝を伸ばすよう促せます。
最後に水をたっぷりあげて完了です。
地植えの場合
定植適期は鉢植えと同じです。
植え付ける1月ほど前に、定植予定地に直径70cm、深さ50cmほどの穴を掘ります。掘り起こした土に堆肥や石灰、有機肥料を混ぜ込んでから埋め戻してください。
植え付けるときは根を広げて浅めに定植します。鉢植えのときと同じように主幹を1/3ほど切り戻し、支柱を立ててからたっぷりと水やりをして完了です。
水やり
鉢植えの場合は土の表面が乾いたら、鉢底から少し流れ出るまでしっかり水やりをします。土の中の養分や空気を入れ替える効果もあるので十分に与えてください。地植えの場合は植え付けから2年間、表面が乾いたときにたっぷりと与えます。3年目からは水やりは必要ありません。ただし夏に雨が少なく乾燥がひどいときには、たっぷりと水をあげましょう。
肥料
11月に元肥として完熟堆肥や鶏糞を与えます。さらに実がつき始めたら、等量肥料(窒素・リン酸・カリを等量含む肥料)を少量与えてください。収穫後にもお礼肥として等量肥料を与えます。
ただし肥料を与えすぎると徒長枝が伸びるため、木の様子を見ながら加減するとよいでしょう。
肥料を与えるときは根元周辺に埋めるように施します。
植え替え
鉢植えの場合
2~3年に1回は根詰まりを防ぎ、通気をよくするため植え替えます。
11~2月の休眠期が適期です。注意点は厳寒期の植え替えは避けること。そのため早めに行うことがおすすめです。
鉢から抜き取り、土を2/3ほど落としてください。細かい根は残し、太い根は強めに切り落とします。
鉢底土、用土を入れたら、植え替え前と根元が同じ位置にくるよう植え付けましょう。木が安定しない場合は、針金を使って固定します。
地植えの場合
実梅の場所を移動したい場合以外、植え替えすることはまずないでしょう。
基本的に大きくなる木なので、植え替えの場合は専門業者に頼むことになります。植え替え適期は鉢植え同様、11~2月の休眠期です。ただしこちらも厳冬期は避けます。
もし自力で植え替えを行うときは、植え付ける前に元肥として肥料を与えるのを忘れないでください。
剪定
「桜切るバカ、梅切らぬバカ」というように剪定は大事な作業です。
夏剪定では8月に伸びすぎた徒長枝を切り戻します。混み合った枝や交差した枝の間引きも重要です。
ただし木が弱っているときや、全体の葉の20~30%を落としたらやめましょう。
本格的な剪定は11~1月中旬までの休眠期に行います。行う作業は次の3つです。
- 交差している枝や混み合った枝、枯れ枝、下向きになった枝など不要な枝の処分
- 30~50cmに伸びた枝を1/4ほど切り詰める
- 先端の枝を1本に間引く
このほかでは「切り替え剪定」も重要です。5~6年を目安に実付きが悪くなった古い枝を落とします。
太い枝を剪定した後は、病原菌の侵入を防ぐためにも癒合促進剤で保護しましょう。
摘果
量よりも形がよく大きい実を収穫したいときには、摘果を行いましょう。傷のあるものや形の悪いもの、ほかより小さいものを中心に取り除いてください。
収穫
梅酒やジュースにするときは、果実の肥大が止まって表面の毛が半分程落ちたところで収穫します。軽くつまんで上に持ち上げるようにするか、剪定ばさみで切り取って収穫しましょう。梅干しにするときは完熟するまで待ちます。下にシートを張って受け止め、自然落下してきたものから漬け込んでいくのがおすすめです。
増やし方
種まき
種まきで実梅を増やす場合、出てきた芽が親木と同じとは限らないという特徴があります。全く異なる梅になることを意識した上でまきましょう。
熟して落ちた実から種を取り出してよく洗い、ビニールなどに密封して冷蔵庫で保存します。11~12月に種を取り出してから改めてよく洗い、深さ15~20cmの育苗箱に小粒の赤玉土を敷いてから植え付けてください。
植え付けの株間は5cmほどです。10~15cmほど土を被せます。種をまいた後は、乾燥させないよう注意しましょう。
まいた種は春に芽を出します。発芽させるコツは、まいてからもしっかり低温に当てることです。
発芽した苗は接ぎ木の台木としても使えます。増やすための第一段階としてまくのもありです。
接ぎ木
一般的な実梅の増やし方はこの接ぎ木です。種をまいて出た芽を1~3年ほど育てて台木にします。
まずは台木の準備です。根元よりも少し上の部分を切り落とします。縦に切り込みを入れてから斜めに切り上げ、三角形に整えてください。
次に挿し穂を準備します。前年に生えた枝を5cmほど切って挿し穂にするのです。
まずは台木の切り口に合わせて穂木の切り口の形を整えます。切り口同士を密着させたら、接ぎ木テープを巻いて台木に固定してください。
作業が終わったら鉢ごとビニール袋に入れて、乾燥させないように管理します。涼しい半日陰において枝が十分に育つのを待ってから植え付けてください。
挿し木
実梅は挿し木では増やしにくい植物です。活着が悪いため初心者には向きません。発根しやすい品種もありますが、無理せず種まきで台木を作ってから挿し木で増やす方がおすすめです。
なお挿し木の方法は2種類あります。休眠挿しと緑枝挿しです。
休眠挿しは冬に休眠中の枝を用意し、その枝を3月中旬に挿します。緑枝挿しは6~7月上旬に新鞘を挿す方法です。
上級者でも難しい方法ですが、気が向いたら挑戦してみるのもよいでしょう。
病害虫
病気
糸状菌が原因となるうどんこ病や黒星病に注意が必要です。風通しが悪いとかかりやすくなるので、込み入った枝は落とすようにしましょう。
それでも梅雨のころにはかかりやすくなります。薬剤を散布して予防するのがおすすめです。
害虫
定番のアブラムシのほか、オビカレハ、コスカシバに注意します。
オビカレハの幼虫は「ウメケムシ」とも呼ばれる定番の害虫です。若齢幼虫は糸で覆った巣を作るので、広がらないうちに巣ごと処分します。
コスカシバは幹の中を食害する害虫です。放っておくと木が枯れてしまうこともあるため、早めに見つけて対処しましょう。
虫の姿が見当たらないのにフンがある、木からヤニが出ているといった場合には、幼虫による侵食が起こっている合図です。6~9月にかけて薬剤で防除、駆除するとよいでしょう。
薬剤選びに注意
薬剤によって、効果のある病気や虫は異なります。使用する際の農薬の濃度にも差があるのも事実です。しかも植物によっては農薬が合わずに枯れてしまうこともあります。
特に実梅は実を食べるために栽培するものです。農薬を使うと残留する危険性がある点は無視できません。そのため農薬が使いづらいと思う方も多いのではないでしょうか。
一番よい方法は実梅を丈夫に育てることです。病気や害虫に負けないように、剪定をきちんとし、木が弱らないように適切な量の肥料を与えましょう。ただし肥料の与えすぎには要注意です。根を傷めてしまうと木が弱ってしまいます。実梅の状態を見ながら適切に管理をするようにしてください。
実梅を使った定番品
梅干し
梅干しは梅の実の定番用途として、真っ先に思い浮かぶものの1つです。かつては薬として珍重されていましたが、今ではおかずや香の物の一つとして定着しています。
樹上で熟して黄色味を帯びてきた実を使って漬け込むのが定番です。しかし熟した梅の実は皮が破れやすくなっているため、収穫・購入したらすぐに漬けましょう。
梅酒
こちらも梅の実の定番用途ですが、梅干しと違って青梅を使用するのが一般的です。実の色が鮮やかな緑で、少し硬いくらいのものが適しています。
粒の大きさをそろえた方が、梅から出るエキスの量が均等になるのでおすすめです。
花も実も
実梅は収穫はもちろん、花も楽しめる品種も多くあります。観賞と収穫の両方の喜びがあるすばらしい梅です。
ただし実梅には自家受粉率の悪いものもあり、目的と手間を考えて選ぶことも忘れてはいけません。
あなたの庭には一体どのような梅が似合うのでしょうか。植樹を考えている方はよく検討してから植えることをおすすめします。