セグロセキレイ【身近にいる鳥たち】
最近見る機会が減った鳥にセグロセキレイがいます。以前は当たり前のようにいたはずなのに宅地化が進み、近所の用水路がコンクリートで固められたあたりから幻の鳥です。そんなセグロセキレイについて気まぐれに調べてみました。
セグロセキレイってどんな鳥?
セグロセキレイの特徴
セグロセキレイについての特徴をまとめると以下になります。
科目 | スズメ目セキレイ科セキレイ属 |
体長 | 約20~22cm |
体重 | 約26~35g |
翼開長 【翼を広げた長さ】 | 約30cm |
体色 | 雌雄異色 オス ・頭から肩、背にかけて濃い黒色 ・腹部は白 ・胸部は黒 ・くちばしの付け根から目、頬、肩、背にかけて黒い部分がつながっている ・くちばし付け根の下部分に白い斑 ・目の上に細い白線があり、額でつながっている メス ・オスに比べて背中が灰色みがある 幼鳥 ・全身灰色だが、翼や尾羽は黒みが強く、腹は淡い |
セグロセキレイの名前の由来
頭から背中にかけて黒く、これが名前の由来になっています。尾羽の上も黒いのに対してお腹は白く、まさに「背が黒いセキレイ」です。
セグロセキレイはさまざまな呼び名のある鳥
セグロセキレイにかかわらず、セキレイ属の鳥はさまざまな呼び名があります。
セキレイは漢字で「鶺鴒」と書きますが、読み方がいくつもあるのです。イシクナギ、イモセドリ、ニワクナギ、ニワクナブリ、ツツ、マナバシラ。全部「鶺鴒」の読み方です。
このほかに長い尾羽を常に上下に振る姿からついた名もあります。イシタタキ、ニワタタキ、イワタタキ。これもセキレイの別名です。
水辺にいることが多いことからカワラスズメ、神話が由来となったオシエドリ、コイオシエドリ、トツギオシエドリというのもあります。
ツツナワセドリと呼ばれることもありますが、こちらはガン(雁)を意味することもあるので厄介です。
セグロセキレイの移動方法
地上では尾羽を上下に動かしながら足を交互に出して歩きます。意外と足早に動き回るのが特徴です。
飛ぶときは波状飛行をします。羽ばたいて上昇しては羽をたたんで下降する、を繰り返す飛び方です。
ホバリングも上手で、飛んでいる虫や壁にとまっている虫も上手に捕まえます。
セグロセキレイはハクセキレイとよく間違えられる
セグロセキレイは背中が黒いからセグロセキレイと呼ばれます。しかしハクセキレイも実は背中が黒いです。ではどこが違うのかというと、頭の黒い部分の面積に差があります。ハクセキレイの方が顔の白い部分が広く、頬も白いです。
セグロセキレイとハクセキレイは鳴き声も違う
セグロセキレイは「ジュビッ、ジュビッ」や「ジュジュ」とにごった声で鳴くのが特徴です。それに対してハクセキレイは、「チュチュッ」と澄んだ声で鳴きます。それぞれの鳴き声をどうぞ。まずはセグロセキレイから。
こちらがハクセキレイです。
聞き比べると違いが分かるのではないでしょうか。
セグロセキレイとハクセキレイを見比べる
せっかくなので、セグロセキレイとハクセキレイを見比べてみましょう。
まずはセグロセキレイから。
そしてこちらがハクセキレイ。
並べてみると違いがよくわかります。
セグロセキレイの生態
概要
セグロセキレイの生態をまとめると以下になります。
分布 | 日本(北海道・本州・四国・九州) |
分類 | 留鳥または漂鳥【積雪地でも越冬することが多い】 |
生息域 | 水辺とその周辺の畑・市街地 【河川の中流域を好むが干潟や砂浜でも多く見る】 |
食性 | 雑食【水生昆虫や土中の昆虫類やクモ、ミミズなど肉食傾向が強い】 |
性格 | ・縄張り意識がとても強い ・寝るときは木の上で寝るなど警戒心も強い |
天敵 | カラス・タカなどの猛禽類など |
寿命 | 2~3年・無事にすめば5年以上【研究中ではっきりしていない】 |
セグロセキレイは日本固有種なのに海外に進出中?
セグロセキレイは一般的に日本固有種とされますが、ロシア沿海地方や朝鮮半島、台湾、中国北部沿岸部などでも観察記録のある鳥です。中には繁殖の記録もあり、韓国では局地的に生息しているともいわれています。
また少数ではあるものの、一部のセグロセキレイが朝鮮半島や台湾、中国へと渡っているのが確認されています。それらの地域では冬鳥ですが、ロシアの沿海地方では繁殖の様子も報告されているのです。
すでにセグロセキレイは日本の固有種ではなくなってきているといえるのかもしれません。
セグロセキレイはハクセキレイに押されている?
セグロセキレイは縄張り意識が強く、ほかのセキレイにも攻撃します。ハクセキレイと戦った場合、セグロセキレイの方がやや強いというのが一般的です。
しかし、ハクセキレイはセグロセキレイよりも環境への適応力があります。それに対してセグロセキレイは水辺から離れられないままです。宅地化や護岸工事が進んだ結果、セグロセキレイにとっては住みにくくなった場所が多くなりました。
結果として適応力のあるハクセキレイは、宅地化した場所でも生活圏にしています。しかし、セグロセキレイは水辺を求めて移動せざるを得ない状況になりました。
1980年に日本野鳥の会が全国調査を行った結果、セグロセキレイの分布域が縮小されていることが確認されたといいます。そして代わりにハクセキレイが分布を広げたことが分かったのです。
セグロセキレイにとって、水田や自然のままの川が欠かせないことが証明されたともいえます。
セグロセキレイの繁殖
特徴
セグロセキレイの繁殖形態をまとめると以下になります。
繁殖期 | 3~7月 |
つがいの形態 | 一夫一妻制 |
繁殖回数 | 通常は1回・稀に2回 |
営巣場所 | 川岸の植物や岩の上、がけ地の影など |
巣の形・材料 | おわん型 材料:枯れ草・枯れ葉・木の皮・ボロ布など |
抱卵担当 | 主にメス |
子育て担当 | つがい |
卵の数 | 4~6個 |
孵化までの日数 | 11~13日 |
巣立つまでの日数 | 約14日【巣立った後もしばらくは親鳥からエサをもらう】 |
セグロセキレイは特別な鳥
日本を作ったのはセグロセキレイ?
セキレイの異名には神話に由来する名前があります。その理由はセキレイが『日本書紀』に書かれた日本創世神話で登場する鳥だからです。その内容とはイザナギ・イザナミの2神に子供の作り方を教えた鳥。
神話によると、子供の作り方がわからなくて困っていた2人の神の前に不意にセキレイが現れました。セキレイは2神の前で尾羽を上下に振ってみせます。その様子を見たイザナギ・イザナミの神は子供の作り方を理解し、国や神々を生んだとされているのです。
婚礼の調度品に鶺鴒台があるのはこの神話に由来します。セキレイがとまって尾羽を振ってみせたとされる淡路島の「鶺鴒岩」は、今も夫婦や恋人の人気スポットの1つです。
『日本書紀』の時代はセグロセキレイが主流だった?
ハクセキレイはかつて北海道や東北といった日本北部のみで見られる鳥でした。『日本書紀』の時代には関東以西にはいなかったのです。
つまり『日本書紀』に出てくるセキレイはセグロセキレイの可能性が非常に高いといえます。せっかくですのでセグロセキレイの尾羽フリフリをご覧ください。
セグロセキレイが減らないために
宅地化や水路の護岸工事が原因で自然の生き物が減ったというニュースは日本全国にあります。我が家の周りもかつては水田ばかりでしたが、宅地化するにつれて夏に聞こえたカエルの合唱もなくなりました。
用水路が護岸工事でコンクリートの壁になってからは、セグロセキレイもほとんど姿を見せません。
自然にやさしい開発も検討してほしいものです。