害鳥としてのカラス【庭にくる鳥たち】
カラスというと真っ先に浮かぶ姿はゴミをあさっている姿。いやいやガァガァと鳴きながら襲い掛かってくる鳥だ、という人もいるかもしれません。実際カラスというと害鳥の代表格のように言う人が多い鳥です。しかし本当にそうなのでしょうか?気まぐれに調べてみました。
※カラスの生態についてはこちら
カラスによる被害って?
カラスによる生活における被害
カラスというとゴミあさり。そんなイメージがすぐ浮かぶくらい、ゴミ収集所に群れています。
カラスたちにとってゴミあさりは、簡単に美味しい食事を手に入れられる方法です。そのため生ゴミが多く捨てられているゴミ収集所ほど、多数で群れて食事をします。カラスが集団で飛来することにより、騒音やフン害なども発生するため厄介です。
このほかにも妙にカラスが来るという人もいるのではないでしょうか。
ペットを庭で飼っている場合、ペットのエサを狙ってカラスが来ることがあります。エサを横取りするために危害を加えることもあるため、ペットがけがをしないよう注意が必要です。
またペットがエサを横取りしやすい相手と思われるとエサ場として認識され、より多くのカラスが集まってくる可能性もあります。
ペットのエサもカラスにとってはごちそうです。ペットのためにもカラスの動向には注意しましょう。
カラスによる人的被害
カラスによる人的被害の中でも多い内容は、カラスに襲われたということではないでしょうか。繁殖期のカラスは巣に近づくものを敵とみなして攻撃的になります。カラスの繁殖期は3~7月ごろのため、注意すべき期間として覚えておくとよいでしょう。
「そうはいってもいきなり襲ってくるのをどうしたらいい?」と思った人もいるかもしれません。実はカラスはいくつものシグナルを送った後に、最終手段として襲ってきています。
つまり突然襲ってくるわけではなく、人がカラスが出すシグナルに気付いていないだけです。
カラスはどんなシグナルを出している?
カラスは縄張りへの侵入者に気付くと警告を出し始めます。最初のころは神経質に枝をつついたりくちばしを鳴らしたりするだけなので、ほとんどの人は気付きません。そのため巣に知らず知らずに近づき続けます。
そこでカラスはより強い警告の意図を込めて鳴き始めます。「ガァガァ」と短く濁った声でカラスが鳴き出したら、それはもう最終勧告といえるほど巣に近づいている証拠です。すぐに道を引き返して、別の道を通る方がよいでしょう。それでも引き返さなければ鳴きながら頭上を飛び回り始め、ついには攻撃してきます。カラスの攻撃の特徴は、後頭部を狙って蹴りを入れるように襲い掛かってくることです。怪我をすることもあるので、カラスが鳴いたらその場を離れるようにしてください。
こんな点にも要注意
うっかりやりがちなことは、巣立ったばかりのカラスのヒナに近づくことです。
巣立ったばかりのカラスのヒナは、ときには地面にいることもあります。けがでもしたのかと近寄ろうとしたら親ガラスの攻撃を受けた。そんなことにもなりかねません。
地面にカラスがいたら距離を取ったまま素通りする。それが一番よい方法です。親ガラスはちゃんと子供を見守っているので、放置しておいても問題ありません。
むしろ近づくことはお互いの間にいらない誤解を生むので放置してください。
カラスによる農業上の被害
カラスは単に農作物への被害だけでも、被害額がシカ、イノシシに次ぐ3位、鳥類だけではダントツの1位です。ビニールハウスを張っても破られてしまうため、農業関連の機材なども含めればさらに被害額は膨れ上がります。
カラスによる農業被害は多岐にわたるのが特徴です。目立つところでは果物や野菜をつつかれて、商品価値を失うというもの。そのほか先ほどの農業関連の機材などの破損、家畜のエサの横取りや家畜自身をつつく、サルモネラ菌などの病原菌の媒介などが該当します。
農作物をつつくという点だけを見ても食害するだけではありません。まだ熟していない果物や野菜をつついて商品価値を下げる、いたずらのような被害もあります。
カラスによる具体的な被害額は?
農林水産省が公表しているデータでは、農作物被害のみで畜産業界への被害は計上されていません。それでも令和2年度(2020年度)のカラスによる農作物の被害額は13億7900万円です。
※詳しくはこちら
畜産業界などの被害もあわせると、カラスによる被害額は相当なものになることが予想されます。
カラスの駆除方法は?
カラスの物理的駆除には許可が必要
カラスの駆除というと殺処分が真っ先に思い浮かぶことでしょう。しかし実際にカラスの駆除というと、グッズなどを使って追い払うことを指します。
なぜカラスを捕まえたり殺したりできないのかというと、法律で保護されているからです。
「鳥獣保護法(鳥獣の保護及び管理及びに狩猟の適正化に関する法律)」という法律によって、一般人がカラスを傷つけるだけでも違法行為となる可能性があります。司法の判断次第では1年以下の懲役か100万円以下の罰金となるのです。
鳥獣保護法でも例外はある
まずは事前に捕獲の許可を受けた場合です。その地域を管轄する役所に法律にのっとった申請をして受理されれば、カラスを捕まえて殺処分することも可能になります。
またモグラやネズミの捕獲も例外です。実際にネズミ捕りや殺鼠剤などを使って、一般家庭で駆除することは珍しくありません。そんな行為が法律違反にならないのも、この例外に該当するからです。
もう1つの例外が狩猟鳥獣の捕獲になります。北海道以外の地域で毎年11月15日から翌年2月15日までの間、狩猟方法と狩猟する区域さえ守れば無許可でも捕獲できるのです。
注意したい点は自治体によって期間や禁止区域が異なる可能性があること。そのため住んでいる地域によっては違法行為となってしまいます。必ず事前に確認してください。
問題がないならカラスは捕獲できます。なぜならカラスは狩猟鳥獣に含まれているからです。
狩猟方法に問題がなく、かつ禁止区域以外での捕獲なら、期間内なら捕まえても報告する必要すらありません。なぜなら狩猟鳥獣は保護する対象に含まれていないからです。
ただしカラスを素人が捕まえようとしても、そうそううまくいかないので、そのつもりでかかってください。カラスは賢く用心深い鳥です。そこは意識しておきましょう。
※法律解釈参照および著作権元ー『カラスブログ』様
狩猟鳥獣って?
環境省のガイドラインによると、
日本に生息する野生鳥獣約700種のうちから、狩猟対象としての価値、農林水産業等に対する害性及び狩猟の対象とすることによる鳥獣の生息状況への影響を考慮し、鳥獣保護管理法施行規則により次の48種類を選定しています。
鳥類(28種類)
カワウ、ゴイサギ、マガモ、カルガモ、コガモ、ヨシガモ、ヒドリガモ、オナガガモ、ハシビロガモ、ホシハジロ、キンクロハジロ、スズガモ、クロガモ、エゾライチョウ、ヤマドリ(コシジロヤマドリを除く。)、キジ、コジュケイ、バン、ヤマシギ、タシギ、キジバト、ヒヨドリ、ニュウナイスズメ、スズメ、ムクドリ、ミヤマガラス、ハシボソガラス、ハシブトガラス
獣類(20種類)
タヌキ、キツネ、ノイヌ、ノネコ、テン(ツシマテンを除く。)、イタチ(雄)、チョウセンイタチ、ミンク、アナグマ、アライグマ、ヒグマ、ツキノワグマ、ハクビシン、イノシシ、ニホンジカ、タイワンリス、シマリス、ヌ-トリア、ユキウサギ、ノウサギ
(※)狩猟鳥獣については、都道府県によっては捕獲が禁止されている他、捕獲数が制限されている場合があります。狩猟をする際には登録都道府県にご確認下さい。
とあり、鳥獣保護法で捕獲が許可されています。
鳥類の終わりにハシボソガラスとハシブトガラスがあり、一般的に害鳥扱いされているのはこの2種です。
ミヤマガラスは渡り鳥で、越冬のためにほぼ全国に渡ってきますが、なじみは薄いといえるでしょう。
カラスの被害を減らすには?
生活での対策
カラスの被害で一番多いのはゴミ収集所でのゴミあさりです。カラスは非常に目のよい鳥のため、ゴミ袋の中にある生ゴミを見逃しません。そのため生ゴミはほかのゴミに隠して出すことが大切です。
たとえ防鳥ネットをかけてあっても、くちばしの届く位置に生ゴミがあれば、カラスは袋を破って引っ張り出します。カラスにエサになるものはないと認識させることが一番大切です。
もちろん防鳥ネットにもカラス除けの効果はあるので、きちんとゴミにかぶせましょう。
またカラスは人の行動をよく見ています。夜でも時間外にゴミを出していると、エサを持ってきてくれる人として顔を覚えられてしまうのです。夜だから大丈夫というのは大間違いなので意識してください。
ペットのエサやりでも同じことがいえます。あの人が来ればペットの元にご飯が来る。カラスにそう覚えられてしまうと厄介です。
対策としてはペットのエサやりは家の中で行うこと。ペット自身へのカラスの被害もおさえられます。カラスのくちばしの届くところにエサになるものを置かない。これが一番大切なカラス除けの方法です。
人的被害への対策
カラスは基本的には人間に危害を加えてはきません。イタズラしに来るカラスもいますが、数はごく少数です。
ではカラスがどんなときに人に危害を加えるかといえば、繁殖期に縄張りに入ったときと巣立ったヒナを守るとき。
カラスは自分の巣を中心に縄張りを持ちます。しかしその範囲は半径50~100mほどと決して広くはありません。それだけに侵入者には神経質になりやすいのです。
カラスから見た場合、縄張りへの侵入者は早めに追い払わないとかわいい子供に被害が出やすくなることを意味します。そんなことはさせないと、親ガラスは必死に子供を守ろうとして攻撃してくるのです。
カラスの被害を防ぐには?
被害を受けないためにはカラスの出すサインに早く気付くことと、カラスのヒナを見つけても近寄らないことです。
一番はカラスが鳴き出したことに早く気付くようにしてください。鳴き出したらすぐに引き返す。それが身を守ることにつながります。
またカラスは後ろから蹴りかかってくることから、傘をさす、両腕を頭の横にまっすぐに立てるといったことも予防対策に効果的です。カラスが攻撃しにくい状況を作れます。もう1点の注意事項は、走ったりせずに普通に歩きながら離れましょう。走ると闘争本能を刺激して、かえって攻撃されることもあるのでおすすめできません。
カラスへのこんな対応は危険
一番やってはいけない行動は、カラスに向かって石などを投げつけて攻撃することです。カラスに危険人物として認識されてしまいます。
一度認識されると大変です。その後、近場を通るだけでも攻撃対象となります。しかも似たような容姿、服装の人まで被害を受けることもあるのです。
さらにカラスは連絡しあう習性があります。あれは危険な人間だとお互いに教えあうのです。カラスは記憶力がよい鳥なので、最低でも1年以上は要注意人物に認定されます。
結果として翌年には同じカラスだけでなく、ほかの仲間からも攻撃される危険性があるのです。そのため間違っても攻撃してはいけません。最悪のケースとしては、まったく関係のない他人まで巻き込んでしまいます。カラスをたかが鳥と思ったら大間違いです。
農業での対策
カラスは見たことのないものを警戒します。「カカシ効果」と呼ばれるものです。そのためカカシなどをはじめそれまで置いていなかったものを置くと、少しの間は警戒して近づかなくなります。
しかし様子をうかがっていて問題ないことがわかると、カラスの忌避効果はなくなってしまうのです。
そこでまた見たことのない新しいものに置き換えれば、カカシ効果でまたしばらくは寄ってきません。
カラスの習性を逆手に取る
カラスはまずは高い場所にとまって様子をうかがう傾向があります。そこで農作物よりも高い部分にテグスをしっかりと張ってみてください。テグスの間隔はカラスがすり抜けられないくらいの幅がおすすめです。
実はカラスは翼にものが当たるのをとても嫌がります。テグスは見えにくいだけでなく、角度によって光って見えるため警戒されやすいのです。
それを利用して農作物の上にテグスを張り巡らせることでカラス除けにします。
また農作物の周囲にも農作物よりも高いネットをしっかりと張り巡らせましょう。隙間があるとそこからカラスが中に入ってしまいます。隙間ができないようにしっかり張るのがコツです。
ビニールハウスでもテグスを張ると効果が期待できます。上部の端から端にテグスをしっかりと張って、てっぺんにとまりにくくなるようにするだけです。
カラスがとまりにくい高さがどのくらいなのかは、カラスの様子をうかがいながら調節してください。
一番大切なこと
畑やビニールハウスなどの周辺に、カラスのエサになりそうなものを置かないことです。たとえ畑やビニールハウスに被害がなくても、カラスにとってエサになるものがあれば通う意味ができます。
エサを置かない。これが一番大切です。
カラスの言い分
カラスによる生活被害への言い分
カラスからしてみたら、ゴミあさりは単に食べ物を探しているだけです。エサになるものが見えている。だから袋を破って取り出している。ただそれだけです。いらないといわれた食べ物があるから食べているにすぎません。
ペットのエサを横取りするのも楽にご飯が手に入るから。
すべてはカラスが生きていくために、どうすれば確実に、そしてできれば楽によりよいエサを手に入れられるか、考えるだけでなく学びつつやっていることです。
実際にカラスはよく人を観察しています。あの人が持ってきた袋にはエサが入っていたことがある、あの人はエサをくれたことがある、あの人は危険だなどなど。カラスは生きるために鋭い観察眼と高い学習能力を駆使している、ということを忘れてはいけません。
カラスによる人的被害への言い分
カラスから見たら人は縄張りを荒らしに来た侵入者であり、大切な子供たちに危害を加えかねない危険な存在にほかなりません。
実際カラスはカラスなりに何度もさまざまな形で警告を与えています。それでもずけずけと土足で人の家に上がり込んでくる不逞の輩が人間なのです。
警告しているのにもかかわらず、さらに侵入してくる危険な存在を排除しないわけにはいかない。子供たちが危ない。だから攻撃して追い出すしかない。子供たちから引き離すしかない。それがカラスの言い分です。
カラスとしても攻撃は危険をともなう文字通りの最終手段。できれば警告の段階で出ていって欲しいのが本音です。攻撃をすることで自分自身もけがをするかもしれない。そうなれば子供たちにも十分にエサを運べなくなる可能性すらある。カラスも必死なのです。巣立ったばかりのカラスのヒナも、まだ上手に生きていくことができません。人間以外にも危険はいっぱいです。でもそれすらも学習途中。そんなヒナに近づくものも、親ガラスからしたら危険因子です。ただカラスも我が子を守りたい。それだけなのです。
カラスによる農業被害への言い分
人の作る農作物はカラスにとってもごちそうです。人が世話をしているとはいえ、カラスからしたらそれも自然物と変わりません。目の前に置かれたごちそうを食べて何が悪いの?カラスからしたらただそれだけなのです。
収穫には程遠い農作物へのイタズラも、自然物としてしか見ていないカラスにとっては遊びの一環にすぎないのでしょう。彼らにとってはすべては自然物であって、人間の所有物という概念はありません。人間側からしたら生活にかかわることですが、カラスにとっては自然物。このギャップは埋めようがありません。摩擦が少しでも減るように、人間側が知恵を絞るしかないのです。
カラスが害鳥と呼ばれるのは筋違い
カラスは自分たちの生活をしているだけ
カラスは害鳥と呼ばれていますが、それは人間から見たときにそう見えることが多いだけともいえます。実際カラスが害鳥とされている場所は、あくまで人の生活圏でのことです。
元々害鳥と益鳥は紙一重といえます。稲をついばむ害鳥といわれるスズメですが、スズメは益鳥としての側面の方が強く、害虫を駆除してくれる農業の強い味方です。実際、中国のようにスズメを駆除したばかりに、農業が大打撃を受けた例もあります。
ではカラスはどうなのでしょうか?
カラスは益鳥でもある
スズメと同様にカラスも益鳥としての側面を持っています。農林業にとって厄介者の害虫やネズミを食べてくれるのです。
さらに自然界でのカラスは掃除屋としての顔も持ちます。雑食性のためなんでも食べるカラスは、動物の死骸なども食べて片付けてくれるのです。
実際に狩猟鳥獣に指定されているミヤマガラスも、害虫駆除のためにニュージーランドに輸入されて帰化したという経歴を持っています。害鳥としての認識が強いカラスですが、農林業の陰の功労者でもあるのです。
人間の問題も考えよう
人間の生活圏で問題視されているカラス。しかし人間側にも問題があることは間違いありません。
ゴミあさりは人が食べ物を捨てているから起こること。そして襲われるのはカラスの警告を無視しているからです。
農業への被害は確かに大きいです。しかし人間側にもカラスと摩擦を起こさない工夫が求められているのではないでしょうか。人が迷惑を受けているから悪い奴。それはあくまで人間視点です。カラスの言い分にも耳を傾けてみませんか?
隣人でもあるカラスへ
よく電線の上から見下ろしているカラスたち。目が合うと小首をかしげてから飛んでいく子。様子をうかがいながらも見下ろし続けている子。カラスはそれぞれに個性を感じます。
カキの実が熟し始めると争奪戦の相手と化すカラス。でもそれもまたありかな、とも思います。今年の秋はどちらが勝つのか楽しみにしておくね。