ヒバリ【身近にいる鳥たち】
畑や田んぼ、草地が広がる郊外に行くと、複雑にさえずりながら飛んでいる鳥がいます。ヒバリです。普段はどこにいるのかわからないくらい姿を見ませんが、春になると縄張り宣言のおかげで目にする機会が増えます。そんなヒバリについて気まぐれに調べてみました。
ヒバリってどんな鳥?
ヒバリの特徴
ヒバリについての特徴をまとめると以下になります。
科目 | スズメ目ヒバリ科ヒバリ属 |
体長 | 約16~17cm |
体重 | 約29~37.5g |
翼開長 【翼を広げた長さ】 | 32cm |
体色 | 雌雄同色 ・頭から背、尾羽まで茶褐色で羽軸に黒褐色の斑紋 ・耳の周辺の羽(耳羽)は赤褐色 ・腹は白 ・のどの両面から胸にかけて黒褐色の縦縞 ・胸部から体側面は褐色 ・外側尾羽は白 ・後頭の羽毛は伸長し冠羽となる ・くちばしは黄褐色で先端は黒 ・後足はピンクがかった褐色 |
ヒバリの名前の由来
ヒバリの名前の由来にはいくつか説があります。
まずは晴れた日にさえずるからとする説。晴れた日から「日晴り」、つまりヒバリになったというわけです。
そのほかではさえずり声からついたとする説があります。
ヒバリには様々な当て字や名前がある
ヒバリを漢字で書くと「雲雀」が一般的ですが、ほかにもいろいろな当て字や名前があります。
「告天子(こうてんし・ひばり)」「叫天子(きょうてんし)」「天雀(てんじゃく)」「姫雛鳥(ひめひなどり)」「噪天(そうてん)」「日晴鳥(ひばり)」などです。
昔から目に付くことが多い鳥だけに、地域名も入れると数多くの呼び名や当て字がある鳥といえます。ちなみに一般的な「雲雀」は、見た目がスズメによく似ていること、さえずるときに高く飛ぶことからきている当て字です。
ヒバリのオスとメスの見分け方
ヒバリはオスもメスもそっくりな鳥です。そんなヒバリの特徴として、オス・メスともに立てることができる頭の冠羽があります。
実はこの冠羽、メスは滅多に立てることはありません。しかしオスはさえずるときや求婚のときなどによく立てます。そのためオスとメスを見分ける際は、行動で見極めることがほとんどです。
ヒバリの鳴き声
「ヒバリの高鳴き」「揚げ雲雀」とも呼ばれるヒバリのさえずり行動。
100mもの上空に飛び上がって停空飛翔しながら、長いと20分以上さえずりつづけます。ほかのオスが縄張りに入ってこないよう、メスを呼び込めるよう、オスも必死です。
実は草や石の上でもさえずることはあるため、必ずしも上空からしか声が聞けないわけではありません。
そんなヒバリのさえずりはこちらの動画でどうぞ。
ヒバリの移動方法
ヒバリは地上では交互に足を出して歩きます。その様子はこちらの動画でどうぞ。
ヒバリの生態
概要
ヒバリの生態をまとめると以下になります。
分布 | アフリカ大陸北部・ユーラシア大陸・イギリス・日本 |
分類 | 留鳥・北部や寒冷地は夏鳥 【亜種カラフトチュウヒバリ・亜種オオヒバリは冬鳥】 |
生息域 | 草原や河原、農耕地など【近年では高山帯や山岳地帯でも確認される】 |
食性 | 雑食【植物食傾向が強いが繁殖期は動物食傾向が強くなる】 |
性格 | とても臆病 |
天敵 | イタチや猫などの肉食の哺乳類・ヘビ・カラス・猛禽類など |
寿命 | 平均16年ほど【30年生きたという記録もある】 |
ヒバリは寿命が長い
ヒバリは小鳥としては寿命の長い鳥です。平均で16年ほど生き、記録の上で最長のものは30年にもなります。スズメが2~3年、ハトでも10年ほどといわれているのでかなり長生きです。
飼育下ならばスズメでも10年ほど、ハトなら20年ほど生きますが、それでもヒバリの寿命の長さが際立ちます。ヒバリは意外とたくましい鳥なのです。
ヒバリは水浴びよりも砂浴びが好き
開けた場所にすむ鳥らしく、ヒバリは水浴びはしない鳥です。本来鳥は水浴びをすることで寄生虫などを落としていますが、ヒバリはどうしているのでしょうか。
ヒバリは水浴びの代わりに砂浴びをして寄生虫を落としています。そういう点でもヒバリには草地や畑といった開けた場所が必要です。
人のそばで生活する鳥であると同時に一線を引いて生活している鳥。それがヒバリなのです。
ヒバリの繁殖
特徴
ヒバリの繁殖形態をまとめると以下になります。
繁殖期 | 3~8月 |
縄張りの広さ | 直径50mほど |
つがいの形態 | 一夫一妻制 |
繁殖回数 | 失敗による再営巣あり 【産卵以上まで6回、うち巣立ちまで2回という記録もある】 |
営巣場所 | 主に草の根元などの地面 |
巣の形・材料 | 土にくぼみを掘ったおわん型の巣【材料:植物の葉や根】 |
巣作り担当 | メス |
抱卵担当 | メス |
子育て担当 | つがい |
卵の数・特徴 | 3~5個 ・平均長径約22mm×短径16.5mm ・重量約3.2g ・灰褐色に褐色の斑(鈍端に多い) |
孵化までの日数 | 11~12日 |
巣立つまでの日数 | 9~10日 |
巣立ったばかりのヒナはまだ上手に飛べません。そのため巣立ち後20日くらいまでは親元で過ごします。まともに飛べるようになると小さな群れを作って暮らすようになり独立していくのです。この頃「落下ビナ」と間違えられて人に拾われる例が多発します。しかし親からヒナを引き離すことになってしまうため、見つけてもそっとしておきましょう。
ヒバリの求愛は?
繁殖期になるとオスは縄張りを持ってメスを呼びます。そして必死に求愛してつがいになるのです。
メスはより高く飛ぶオスとつがいになる傾向があります。そのためオスは100m以上もの高さまで飛び上がり、高いと110mにまで達することもあるほどです。そんなヒバリの求愛の様子はこちらの動画でどうぞ。
ヒバリはヒナにエサを運ぶときにもひと工夫
ヒバリの巣は地上にあるため、天敵に見つかるとヒナが全滅してしまうことも珍しくありません。そのため天敵に巣が見つからないように親鳥も工夫しています。わざわざ巣から離れたところに下りて、歩いてヒナのもとにエサを運ぶのです。
安全を確認するまでは親鳥は巣に戻らないよう気をつけます。それでも子育てに失敗して再営巣する方が多いというデータもあり、子育ての厳しさが浮き彫りになっている鳥です。
温暖化の影響?山岳地帯でもヒバリが繁殖
ヒバリは近年、北海道の大雪山系の標高2,000m付近の高山帯のみならず、北海道や本州の山岳部でも繁殖が確認されるようになっています。
温暖化の影響なのか、適応して生活域を広げたのか、詳しいことはわかっていません。
ヒバリの仲間
日本で見られるヒバリ属の鳥
日本で確認されるヒバリには、クビワコウテンシ、カラフトチュウヒバリ、オオヒバリ、そしていわゆる日本のヒバリがいます。そんな中でクビワコウテンシはヒバリ科ではあるものの、コウテンシ属という別種の鳥です。
一方でカラフトチュウヒバリ、オオヒバリ、ヒバリは同じヒバリ属で、それぞれ亜種とされています。カラフトチュウヒバリ、オオヒバリは本州以南へ越冬のために飛来する冬鳥です。そのため日本では繁殖しません。
日本のヒバリは固有種?
亜種ヒバリを独立種とする説があり、学界でももめている鳥です。実際日本のヒバリの学名はAlauda arvensis japonicaといいます。近いうちに独立種として認められ、日本の固有種になる可能性も否定できません。
ヒバリと人間との関わり
多くの文学や楽曲に登場するヒバリ
ヒバリは日本に限らず古くから文学や楽曲で人気の題材でした。のどかな田園風景を象徴するものとして、春の風物詩として、さまざまな形で愛されてきた鳥です。
俳句でも春を表す季語になっています。
一方でこんな民話も
民話にもヒバリは登場しますが、その元となったのはさえずり声です。
鳥の声を人間の言葉に当てはめる聞きなしで、ヒバリは「日一分、日一分、利取る、利取る、月二朱、月二朱」と鳴いていると表現されます。
早い話が「毎日1分を利率として取るぞ。月二朱(昔の貨幣)だ」と言っているように聞こえるというのです。この聞きなしから岩手県にはヒバリは太陽にお金を貸していて、お金を返すように催促しているという民話があります。
ヒバリはペットとしても人気だった
今ではヒバリはペットとして飼うことはできない鳥です。1979年に環境省の方針で禁止されました。今でも「鳥獣保護法(鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律)」によって正式に禁止されています。
しかしかつてはペットとしても人気でした。
飼うのは難しいとされるスズメよりも手がかかるヒバリ。そうまでして飼いならしたヒバリを野外で放ってさえずらせ、かごに戻るまでの時間を競う「揚げ雲雀・放し雲雀」という遊びが流行ったのです。今ではヒバリを飼うことはおろか、保護をするにも許可をとらなければなりません。間違っても捕まえることのないようにしてください。
江戸時代には珍味だった?ヒバリは「三鳥二魚」の1つ
ヒバリは江戸時代のころに「三鳥二魚(ツル・ヒバリ・バン・タイ・アンコウ)」と呼ばれ、5大珍味の一つとされていました。そのため水戸藩から郷土料理として皇室にも献上されていたというのです。
三鳥の中で今でも狩猟が認められているのはバンだけ。とはいえわざわざ鷹匠に命じてまでヒバリを捕っていたというのですから驚きです。
ヒバリは世界的に減少傾向
環境の悪化が原因
ヒバリは世界的に減少傾向の鳥です。
ヨーロッパではかつては春まきだった小麦が秋まきに変わったため、春にはヒバリが生活するには適さない草丈まで育つようになりました。
さらに農地の大規模化が環境の多様化を失わせ、ヒバリにとって住みにくくなってしまったのです。
そのためEUでは、ヒバリやそのほかの農耕地に住む生き物たちが生活しやすい農業へと変革を進めています。
日本でも減っているヒバリ
世界の流れと同様に、日本も全国的にヒバリの生息数が減っています。
特に東京では畑が減り、個々の畑も小規模なものに変わってきました。育てられている農作物も、ヒバリにとって生活しにくいものが主体です。
結果として東京都の広い範囲でヒバリは絶滅危惧II類になっています。
そのほかの地域でもヒバリは減少傾向の鳥です。山形県でも絶滅危惧II類、福島県・千葉県・大阪府・山口県で純絶滅危惧、神奈川県では減少種となっています。
※参考データ:日本のレッドデータ
天高く
ちょっと郊外に出ると響いてくるヒバリの声。しかし我が家の近辺も宅地化が進むにつれてそのさえずりは減っています。桜の頃には競い合っていた声が数えるほどというのは寂しいものです。
音で春を感じるのに少々遠出が必要になるのはこの時代、仕方のないことなのでしょうか。