オオサンショウウオ【日本の固有種】
日本の固有種の1つとして有名なオオサンショウウオ。そののんびりとした姿はテレビでも時々見かけます。しかし姿は知っているもののその生態までは知らないものです。せっかくなら詳しく知っておきたいもの。思い立ったが吉日とばかり、きまぐれにオオサンショウウオについて調べてみました。
オオサンショウウオってどんな動物?
オオサンショウウオの特徴
オオサンショウウオの特徴をまとめると以下になります。
科目 | 有尾目オオサンショウウオ科オオサンショウウオ属 |
学名 | Andrias japonicus(Temminck, 1836) |
体長 | ・自然界では50~70cm(100cmは極めてまれ) ・飼育下では最大150cm |
尾の長さ | 全長の1/3ほどで縦に平たい |
目の大きさ | 直径2mmほどでまぶたはない(視力は光がわかる程度) |
体重 | 150cm近くの巨大なもので33kgという記録あり |
体色 | ・背面からしっぽにかけて暗褐色 ・不規則に黒い斑紋がある |
オオサンショウウオは何類?
オオサンショウウオは両生類です。カエルやイモリなどの仲間になります。
知っている両生類の大きさを考えると、オオサンショウウオの体長50cmは何かの間違いと思うかもしれません。しかし本物を見てみると実際の大きさにびっくりする人が続出。大型のカエルであるウシガエルですら体長18cmちょっとですから、目の前の生き物が両生類といわれてもただ驚くしかできないのでしょう。もちろん体重も規格外です。重さは30kgですからお米の10kg袋で3袋分。両生類というと比較的小型な生き物という印象なだけにさらに驚かされます。
オオサンショウウオの呼吸方法も両生類ならでは
オオサンショウウオの大人は肺呼吸と皮膚呼吸です。しかし大人になっても水の中で生活することから、約20分ごとに鼻だけ出して呼吸をします。
一方で幼生時はえら呼吸です。そのため水上に鼻を出すようなことはありません。
オオサンショウウオが両生類である証拠といえます。
オオサンショウウオは「生きた化石」
オオサンショウウオは3000万年前からほとんど姿を変えていません。証拠となる化石はスイスで発見されました。
オオサンショウウオ科の化石が18世紀のヨーロッパで発見されたときには、ノアの洪水で死んだ人だと判断されたとか。結果として学名は「ヒト」を表す「Homo」を含め、「Homo diluvii testis」と名付けられました。人ではないと分かったのはシーボルトが日本からオオサンショウウオを持ち帰った後です。学名は「Andrias(ヒトのようなもの)」に変更されることに。しかし化石の学名は発見者のヨハン・ヤーコブ・ショイヒツァーへ敬意をこめて「Andrias scheuchzeri」となったのです。
オオサンショウウオの指にも注目
オオサンショウウオは前足と後ろ足で指の数が違います。では何本ずつかというと、前足は4本、後ろ足は5本。足も指も短く爪もありません。
まるで肉球でもついているかのように丸みがあるのが特徴で、岩の上でも流れに逆らってしっかり踏ん張れるようになっています。
オオサンショウウオの名前の由来
サンショウウオの名前の由来で有力なのは「山椒のような香りを発するから」という説です。
実際漢字で書くと「山椒魚」であり、平安時代以前からの古称も「はじかみいを」といいます。「はじかみいを」は「山椒(はじかみ)魚(いお)」。こちらも山椒です。
しかし一方では刺激臭を発するけれど山椒の香りではないとも。「山椒の木のごつごつした感じと体表が似ているからサンショウウオ」という説もあるのもあながちではないようです。
オオサンショウウオには異名もある
オオサンショウウオは「ハンザキ」と呼ばれることもよくある生き物です。名前の由来は多数あります。しかし信用度の高い古文献などがなく、決定打に欠けるためにはっきりしていません。
・由来としてあげられる主なもの
- 体を半分に裂いても生きていそうな動物だから
- 体が半分に裂けているような大きな口をした動物だから
- ハジカミがハミザキになり、さらにハンザキに変化した
- 体のまだら模様が花柄のようにも見えることから「花咲き」となり、そこから変化した
- 山椒の古称であるハジカミが転じた
オオサンショウウオの生態
概要
オオサンショウウオの生態をまとめると以下になります。
分布 | 日本列島南西部(岐阜県以西の本州・四国・九州の一部) |
生息域 | ・主に標高400~600mにある河川の上流域 ・中流や下流、市街地近くや水田の水路でも観察されることがある |
活動時間 | 夜行性 |
食性 | 肉食 ・水中で遭遇した生き物全般 ・魚やサワガニなどのほか、ヘビ類、カワネズミなども捕食する ・共食いすることもある ・代謝が遅く数週間食べないこともしばしば ・嗅覚が鋭い |
性格 | おとなしいが貪欲(噛まれると大けがをすることもある) |
天敵 | 幼生時にはほかの生物や親に食べられることがある |
寿命 | ・自然界でも10年以上生きる ・飼育下では52年(オランダのアムステルダムの動物園) |
オオサンショウウオには過去に人為的に移入された個体群もある
オオサンショウウオは青森県から鹿児島県にかけて捕獲例があるものの、外来種のチュウゴクオオサンショウウオと間違えられたものか人為的に移入されたものと考えられています。
実際和歌山県の個体群はかつて一度絶滅し、1958年ごろに兵庫県生野地方から移入されたものが定着、以降繁殖を続けているものであるというのが一般的な見解です。またオオサンショウウオは東日本には生息していません。なぜ西日本だけにいるのか理由はまだわかっていないのが現状であり、東日本での捕獲例が人為的なものである証拠といえます。
オオサンショウウオの寿命は長い
オオサンショウウオは自然下でも10年以上生きるだけでなく、飼育下では50年以上と人間並みに生きられることがわかっています。飼育下で50年以上ということは少なくとも60年以上は生きられるということです。
では上限はどのくらいなのかも知りたいもの。ところが人の寿命にも匹敵しかねないとなると、今度はスケールが大きすぎるのが問題点になっています。研究者が代替わりするほど長い時間を要するからです。
近年ではマイクロチップを埋め込んで追跡調査を始めたものの、こちらも結果が出るまでには時間がかかります。そこで注目を集めている診断方法がDNA検査で年齢を割り出す方法です。問題点はまだ正確に計れる方法が確立していないこと。ただし成功すれば血液検査だけでわかるようになるため研究がすすめられています。
オオサンショウウオの繁殖
特徴
オオサンショウウオの繁殖の特徴をまとめると以下になります。
繁殖期 | 8月下旬~9月中旬 |
縄張り | 産卵巣と呼ばれる巣の中 |
営巣場所 | ・6~7月に川をさかのぼり、流れの緩やかな川岸にオスが横穴を掘る ・岩の隙間を産卵巣にすることもある ・毎年同じ場所を利用することが多い |
卵の数 | 個体差があるが400~1000個 |
卵の大きさ・色 | ・直径5~8mmで黄色 ・透明なゼリー状の卵嚢(らんのう)が数珠状につながる |
孵化までの日数 | 約50日 |
幼生の特徴 | ・外えらを持つ ・幼生の間は黒一色で模様がない |
オオサンショウウオの産卵
オオサンショウウオは大型のオスが産卵巣を作ります。ほかのオスが侵入してくると追い払おうとするために繁殖期のオスは攻撃的です。産卵巣には複数のメスが産卵しますが、中にはほかのメスの産んだ卵を食べてしまうものもいるとか。また産卵巣の主のオスが放精するときには、スニーカーと呼ばれる巣穴を持たないオスがくることもあります。目的はもちろん自分も放精して卵を受精させること。そのため1匹のメスに複数のオスが絡んだ状態での産卵になることも珍しくありません。
オオサンショウウオはオスが卵を守る
オオサンショウウオは産卵したらそのまま、というわけではありません。産卵巣の主のオスが卵を守ります。普段はしっぽを揺らして新鮮な水を行き渡らせ、かいがいしく卵の世話をするのです。
こまめに卵の世話をしてはいるものの時には卵にカビが生えてしまうことも。するとオスはカビの繁殖を防ぐためにその卵を食べて除去します。卵全体を守るためオスは常に臭いをかいで傷んだ卵があると取り除くのです。
オスから手厚い保護を受け続けて卵は孵化します。しかしオスの育児はまだ続きます。幼生たちが巣立つのは1~2月ごろのこと。子供たちが外敵に食べられないようオスは守り続けます。
オスにとって敵は外敵だけではありません。自らの体から出す粘液で幼生たちの殺菌もしているようなのです。実際に巣穴から親を引き出すだけで子供たちが全滅してしまうことがわかっています。
オオサンショウウオのオスはかなり手の込んだ育児をする珍しい動物でもあるのです。
オオサンショウウオはどのくらいで大人になる?
オオサンショウウオの幼生は3~4年で変態し、性的に成熟するのは生後5年後以降と考えられています。両生類としては大人になるのがかなり遅いのも特徴。しかし大人になったときの体長は50cmを超えているというのですから、成長速度としては大したものかもしれません。
オオサンショウウオは特別天然記念物
オオサンショウウオは1951年に天然記念物に、1952年に特別天然記念物に
オオサンショウウオは「文化財保護法」が適用された特別天然記念物です。元々は1927年(昭和2年)に岐阜県の和良川とその支流域が「オオサンショウウオ生息地」として天然記念物に指定されたのが始まりでした。
1932年(昭和7年)に同じ岐阜県の鬼谷川水系が、翌1933年(昭和8年)に岐阜県の小間見川水系を追加。最終的に岡山県の現・真庭市、大分県の現・宇佐市および現・由布市も加えられました。種としては1951年(昭和26年)6月9日に天然記念物に、翌1952年(昭和27年)3月29日に特別天然記念物に指定。現在では国の文化財として保護対象になっています。
オオサンショウウオを見つけたら?
オオサンショウウオは文化財保護法によって国の文化財という扱いのため、無断で触ったり移動したりすることは禁止されています。もちろん持ち帰って飼うなど厳禁。違法行為として罰則対象になることもあり得ます。
では見つけたらどうすればよいのか。元気なようならそのまま放置で問題ありません。衰弱しているようなら発見先の市町村の文化財担当課へ連絡してください。死体の場合でも同様です。生きていても死んでいても「すべて国の文化財」。必ず役所に届け出ましょう。
オオサンショウウオが抱える問題
オオサンショウウオの生息地の減少
オオサンショウウオが生活している河川でダムや堰堤(えんてい)が作られ、繁殖のための移動に制限を受けることが増えました。
堰堤とは河川や渓流に作られる水流や土砂をせき止めるための堤防のこと。よく見るタイプは川の端から端まで作られたコンクリート製の段差です。アユなどの遡上にも悪影響が出て問題になっていますがオオサンショウウオも例外ではありません。
また河川の改修工事や護岸工事などもオオサンショウウオの住処だけでなく産卵場所まで奪っています。コンクリートで固められた川岸では普段生活するための隠れ家を掘るなんて無理です。当然産卵巣も無理ですから繁殖もできないことに。生活環境の激変からか自然界では大型の個体が減っていることもわかっています。コンクリートで固めた場所を自然の状態に戻すことも検討するべきなのかもしれません。
チュウゴクオオサンショウウオとの交雑による遺伝子汚染
オオサンショウウオが種として天然記念物になったことで輸入されたのがチュウゴクオオサンショウウオです。目的は食用。実はオオサンショウウオは貴重な食料でもあったのです。
しかし近畿を中心にチュウゴクオオサンショウウオが野生化。2008年(平成20年)9月15日付の産経ニュースによると、京都の賀茂川では13%がチュウゴクオオサンショウウオで44%は交雑種に。幼生でも71%が交雑種で、繁殖地に近くなるほど比率が高くなるという結果が出たのです。現在では賀茂川のオオサンショウウオは絶滅した可能性も示唆されています。
オオサンショウウオとチュウゴクオオサンショウウオは遺伝子的にも近い種。結果として交雑しやすいだけでなく、チュウゴクオオサンショウウオの方が100cmと大きいために生存競争でもオオサンショウウオの方が分が悪いことが響いています。
交雑個体の扱いも問題です。純血種ならばオオサンショウウオとチュウゴクオオサンショウウオは見分けがつくものの、交雑種になると遺伝子検査をしないとわかりません。つまりはっきりするまでは手が出せないため、より交雑が進むのを止められないのです。現在では法整備が遅れているのも大きな問題。ややこしくしているのは「文化財保護法」が文部科学省、「種の保存法(絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律)」は環境省と関係法令の管轄が異なることです。しかし現状は待ったなしの状況なので急ぎの対応が求められています。
実はチュウゴクオオサンショウウオも希少種
チュウゴクオオサンショウウオを外来種として駆除できない理由が「ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)」です。
実はチュウゴクオオサンショウウオも絶滅危惧種でワシントン条約でも重要な保護対象。
オオサンショウウオ属自体が世界に2種しかいない貴重な生き物で、該当するのがオオサンショウウオとチュウゴクオオサンショウウオです。しかも保全状況を見てもオオサンショウウオが純絶滅危惧種であるのに対し、チュウゴクオオサンショウウオは3段階上の「深刻な危機」に瀕している種であることも問題を複雑化しています。なぜなら種の保存法はワシントン条約に準拠することを明記した法律なので、チュウゴクオオサンショウウオも当然保護対象なのです。チュウゴクオオサンショウウオにうかつに手を出せない理由がここにあります。
オオサンショウウオを兵庫から無断で移動させた事件も
2022年(平成4年)6月に、滋賀県甲賀市で個体識別情報に記録されたオオサンショウウオが発見されたことが発表されました。
問題なのはこのオオサンショウウオが兵庫県から無断で持ち込まれたらしいということです。しかも近年発見情報のない野洲川で発見されたこともあり、生態系を壊す行為としてやめるよう注意喚起が行われています。そもそもオオサンショウウオは無許可で触ってはいけない生き物です。もちろん移動も禁止されています。オオサンショウウオのためにもこのような行為は避けるべきです。
オオサンショウウオと人間との関わり
オオサンショウウオは昔は貴重な食料だった
チュウゴクオオサンショウウオが食用として輸入されたようにオオサンショウウオはかつては貴重な食料でした。今でも以前に食べたことがあるという人がいるようです。食通で有名な北大路魯山人も著作『魯山人味道』でオオサンショウウオを食べたときのことを書いています。
味は「魚肉と鶏肉の中間」「あっさりしていて鶏のササミみたい」とのことですが、魯山人曰く非常に美味だとか。しかし現在では捕獲そのものが禁止です。食べてみたいからといって密猟しないでください。
「オオサンショウウオの日」もある
オオサンショウウオの全身の姿が数字の9の字に似ていること、9月ごろに繁殖のため活発化することから「9月9日」に決まったという『オオサンショウウオの日』。展示に力を入れている京都水族館が一般社団法人日本記念日協会へ申請したものです。
2018年(平成30年)の4月18日に認定され、2022年(令和4年)には展示しているオオサンショウウオの公開測定などのイベントも行われました。京都市内の10の施設団体も協力して盛り上げたというだけに、今後も要注目の日となりそうです。
キモかわいいとオオサンショウウオのぬいぐるみなどグッズも人気
京都水族館ではオオサンショウウオのぬいぐるみは代表的な人気グッズ。Twitterでは@moco_2さんの『オオサンショウウオ漫画』も人気を集めるなど、「かわいい」姿が密かなブームになっています。
その人気は食品業界にまで。広島県ではフジトシ食品が地元の高校生とのコラボ商品として「オオサンショウウオこんにゃく」を販売したところ、2022年(令和4年)10月現在、1~2ヶ月の出荷待ちという大人気商品になっています。
ちょっとネット検索してもいろいろ出てくるオオサンショウウオグッズ。抱き枕になるほど大きいぬいぐるみはなかなかの迫力です。
オオサンショウウオのこんな動画はいかが?
まずは野生のオオサンショウウオの姿からどうぞ。
京都水族館での身体測定の様子です。
縄張り争いの様子もどうぞ。
食事の様子はこんな感じだそうです。
オオサンショウウオにあえる場所
おすすめは京都水族館
京都市下京区にある京都水族館はオオサンショウウオの展示に力を入れている水族館です。梅小路公園の中に2011年(平成23年)4月1日に開館。オオサンショウウオだけでなく、チュウゴクオオサンショウウオや交雑種も見られるのも魅力です。
京都観光の際にはぜひとも立ち寄ってみてください。
日本サンショウウオセンター
オオサンショウウオだけでなく、国内産を中心とした9種類約50匹余りが展示されています。赤目四十八滝内にある一風変わった水族館です。三重県に訪れた際に立ち寄ってみると意外な発見があるかも。
大きくて愛嬌のある生き物
オオサンショウウオは昼間は寝ているものの、ときとしてあくびもするなど愛嬌あふれる生き物です。見られる場所は限られているものの、大雨の後などは野生のオオサンショウウオに出会うこともあるとか。
いつまでもその姿を見続けられるよう、環境づくりをしていってあげたいものですね。
※参照文献
・公益社団法人農林水産・食品産業技術振興協会(オオサンショウウオのページ)
・京都府ホームページ(オオサンショウウオのページ)