ムクドリ【庭にくる鳥たち】
庭の草むしりをすると、どこから見ていたのか必ずやってくる鳥がムクドリです。むしった後をくちばしでほじくり返し、土の中に隠れている虫を取ってくれます。秋には庭の柿の実を取り合うライバルですが、身近にいて当たり前の鳥です。そんなムクドリについて、気まぐれに調べてみました。
ムクドリってどんな鳥?
ムクドリの特徴
ムクドリの特徴をまとめると以下になります。
科目 | スズメ目ムクドリ科ムクドリ属 |
体長 | 約24cm【スズメとハトの中間ほど】 |
体重 | 約75~90g |
翼開長 【翼を広げた長さ】 | 約40cm |
体色 | 雌雄異色 オス ・全身黒褐色 ・目の周りから頬にかけて白斑【個体差あり】 ・胸部にも白斑がある【個体差あり】 ・腰と羽の裏側は白 ・腹部は灰褐色 ・くちばしと足は黄色からオレンジ メス ・全身茶褐色に近い ・その他の色合いはオスと同様 ※目の周りの模様とくちばしの色は年とともに変化する |
ぱっと見のサイズを表現するときに使う、いわゆる「ものさし鳥」の1つです。体色にも特徴があるため、わかりやすい鳥といえます。
地面の上を移動するときは、足を交互に出して歩くのが特徴です。
ムクドリの鳴き声
「キュルキュル」「ジャージャー」「ケケケ」「ツイッ」などさまざまな鳴き方をします。声量が大きく、集団になるとパチンコ店内並みの音量になることもあるほどです。そんなムクドリの鳴き声はこちらの動画でどうぞ。
ムクドリの名前の由来
ムクドリの名前の由来は諸説あります。
まずは「群木鳥・群来鳥(むれきどり)」と呼ばれていたものが転じた後ムクドリになったとする説です。
そして椋(むく)の木(アサ科ムクノキ属の落葉高木)の木の実を好むことから椋鳥(ムクドリ)となったとする説が有力視されています。
しかし後者に関していうと、ムクドリは甘い木の実ならなんでも大好きです。桃に柿、梨、ブドウ、リンゴとかなり高価な果物も好みます。
生産者にとっては天敵ともいえる鳥です。
俳句の季語としても使われる
ムクドリは冬の季語です。理由は江戸時代に冬にくる集団出稼ぎ者のことを皮肉ってムクドリと呼んでいたことに由来します。「やかましい田舎者の集団」という意味で使われていたのです。
しかし生活がかかった人たちには冷たい仕打ちでしかありません。かの俳人・小林一茶も経験したことで、「椋鳥と人に呼ばるる寒さかな」という俳句を残しています。
間違ってもしたくない使い方です。
ムクドリの生態
概要
ムクドリの生態をまとめると以下になります。
分布 | 東アジア【中国・モンゴル・ロシア東南部・朝鮮半島・日本】 |
分類 | 留鳥【北海道など北部・寒冷地は夏鳥】 |
生息域 | 低地の平野部や農村部・低山地・都市部 |
食性 | 雑食【植物の種子や果物、虫の幼虫、ミミズ、両生類など】 |
性格 | ・集団で行動することが多い ・ほかの鳥を追い払ってエサを独占する ・縄張り意識は強い ・天敵の排除には集団で圧力をかける |
天敵 | カラス・猛禽類・猫など |
寿命 | 平均5~7年【一説で最高20年】 |
日本ではどこにでもいるような鳥という認識ですが、分布域は限られています。
エサは果物もよく食べますが、酸味の強い柑橘系はあまり好みません。
ムクドリは巨大な群れを作る
繁殖期以外は数百~数千の群れを作って行動するのが特徴です。群れの中には序列があり、低いものほど外敵に襲われやすい外側に位置するシビアな面があります。
夜には林や竹やぶに集まってねぐらを作るのも特徴です。10km以上の範囲からいくつもの群れが集まり、冬には数万になることも珍しくありません。集団で寝ることで天敵から身を守り、冬は暖をとっていると見られています。都市部ではねぐらに適した場所が少ないことから、街路樹などに集まることが増えました。そのため騒音やフン害などが問題になっています。
ムクドリの繁殖
特徴
ムクドリの繁殖形態をまとめると以下になります。
繁殖期 | 3~7月 |
繁殖回数 | 2回ほど |
縄張りの広さ | 150~200平方メートルほど【集団営巣することもあり】 |
つがいの形態 | 一夫一妻制 |
営巣場所 | 木のうろや岩のくぼみ、屋根や排気ダクトなどの隙間など |
巣の形・材料 | おわん型【材料:枯れ草・羽毛・獣毛・落ち葉など】 |
抱卵担当 | つがい |
子育て担当 | つがい |
卵の数 | 4~7個【薄い青緑色】 |
孵化までの日数 | 約12日 |
巣立つまでの日数 | 約23日 |
ムクドリのオスは、羽毛を膨らませながら腰の白い羽をメスに見せて求愛します。そんなオスの求愛、そして交尾の様子ははこちらの動画をどうぞ。
またムクドリはつがいで子育てをします。そんなムクドリの子育ての様子はこちらの動画をどうぞ。
巣立ったばかりのヒナはまだ上手に飛ぶことができません。そのため巣立った後もヒナは1か月ほど親鳥と行動を共にします。
繁殖場所に困るようになった
かつては林の木のうろなどに巣を作っていたムクドリですが、環境破壊が進んだこと、日本の家屋の構造が変わったことなどで営巣場所が減りました。そのためムクドリ同士でも縄張り争いが激化しています。
早い場合は前年の秋から巣の奪い合いを始めているという報告も。子育てのために手段を選んでいられないのか、ツバメやスズメの巣を奪うことも珍しくありません。
確実な営巣場所として帰巣本能も強くなっているらしく、前年の巣に戻ってくることも多いです。
またほかのムクドリの巣に托卵する様子も報告されるなど、ムクドリの住宅事情はかなり悪化していることがわかります。そんな巣の奪い合いの様子はこちらの動画をどうぞ。
ムクドリが家に巣を作ると大変?
屋根の隙間や雨戸の戸袋など、ムクドリが入っていける場所には巣作りされる危険性があります。
ムクドリに巣を作られると困る理由は数多くあるため、早くから注意が必要です。
まず困ることは鳴き声による騒音。ムクドリはよく鳴くだけでなく、集団でも営巣します。何組ものつがいが子育てをしようものなら、ヒナの鳴き声も加わってかなりの騒音になることは間違いありません。
さらに巣にはさまざまな問題が付きまといます。悪臭やダニ、フン害と衛生面でさまざまな被害が起こるのです。
ダニは網戸ではまず防げません。そのため激しいかゆみやアレルギー症状のもとになります。
ムクドリには悪いですが、巣を作られないよう注意しましょう。
ムクドリに巣を作られないために
通常はムクドリは追い払うことしかできません。ムクドリをはじめ野生の生き物は「鳥獣保護法(鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律)」によって保護されているためです。
そのためムクドリに巣を作られないために、あらかじめ対策を立てる必要があります。
例えば防鳥ネット。防鳥ネットを張るときには、網の目の大きさや強度に注意が必要です。網の目が大きすぎればムクドリに入られてしまい、弱ければ穴をあけられてしまいます。しっかり選んで設置してください。
止まる場所を奪うバードスパイクと呼ばれるものを置くのもおすすめです。カラスやハトにも有効な方法で、鳥が留まりやすいところに設置するだけ。お手軽にここは危険な場所だと認識させることができます。
もちろん巣を取り除いてしまうのも有効な手段の1つです。庭の木に巣を見つけたら、周囲の枝を剪定すれば出ていってくれます。
ムクドリが家に巣を作ったら?
屋根の隙間や排気ダクトなどに巣を作られた場合、速やかに専門業者に頼むとよいでしょう。健康被害にあう前に巣を取り除けるだけでなく、翌年また利用されることを防ぐことができます。
ただし自分で巣を取り除こうとしないでください。ムクドリが卵を産んだ時点で一般人が手を出すと鳥獣保護法に触れてしまいます。
安全確実のためにも巣の除去は専門業者に依頼するのが一番です。
こんな方法は一過性?
ムクドリは知能の高い鳥といわれています。そのため天敵であるカラスやフクロウなどの模型を置いてもすぐに見破り、効果は長続きしないことが多いです。天敵の声を流しても同様で、こちらも効果は長続きしません。
ならば同じムクドリが警戒時に出す声を流す装置なら…と思ってやってみた自治体もあります。しかし結果は予想以上に早く見破られてしまったのが現実です。
自治体でも手を焼くムクドリを撃退するのは、予想をはるかに上回る大変なことといえます。
巣から落ちたヒナをみつけたときは?
親鳥が近くにいる可能性があるため、むやみと保護しないようにしましょう。木の枝の上などに移動させてから、離れた場所で親鳥が来るのを待つようにします。
もしヒナが衰弱しているようなら、自治体の環境課などに連絡を入れて指示をあおぐのが正解です。鳥獣保護法で保護されているため、手当のために一時捕獲するだけでも許可が必要なのです。自治体から保護の許可を得られたら、「日本野鳥の会」などに連絡して専門家に預けましょう。鳥のヒナを育てるのは素人では大変です。より確実に自然に返すためにも、知識のある人に協力を求めてください。
ムクドリの仲間
コムクドリ
スズメ目ムクドリ科ムクドリ属の鳥です。体長約20cmほどとムクドリよりもやや小柄な夏鳥で、本州中部以北に渡ってきて日本で繁殖します。
雌雄で見た目がはっきり違うのも特徴です。オスは青みがかった黒いくちばし、そして頭からのどまで白く、頬に赤褐色の模様があります。胸から腹は灰色です。背中から翼は青みがかった黒で、光沢があります。
一方でメスは頭から胸まで明るめの褐色で、背中は濃い褐色、腹は灰色です。全体的に地味な色をしています。
シベリアムクドリ
スズメ目ムクドリ科ムクドリ属の鳥で、こちらも約20cmとムクドリよりも小柄です。日本には旅鳥としてくる鳥で、日本海側の離島や南西諸島でみることができます。
ムクドリの仲間としてはスラッとした細身の体型です。黒いくちばしに頭から首回り、腹まで白、褐色の背中に黒い翼と、コムクドリに近い見た目をしています。
ギンムクドリ
スズメ目ムクドリ科ムクドリ属の鳥で、全長約25cmとムクドリとほぼ同じ大きさです。冬鳥または旅鳥で、日本海側の離島や西南日本、南西諸島で見ることができます。
先の黒い赤いくちばし、白い頭、背中や胸、腹は青灰色、青みがかった黒い翼とキレイな色をした鳥です。ただしメスはオスよりも褐色味の強い傾向があります。
バライロムクドリ
スズメ目ムクドリ科ムクドリ属の鳥で、全長約20~25cmとムクドリと同じかやや小さめの体です。冬鳥として南西諸島や西日本以南で見ることができます。
全身茶褐色で、頭と翼、尾は黒みがかっているのが特徴です。
ホシムクドリ
スズメ目ムクドリ科ムクドリ属の鳥で、全長約20cmとムクドリより小柄です。主に九州方面の西南日本で越冬する冬鳥で、ムクドリと一緒に行動しています。
全身黒みがかった濃い色をしているのが特徴です。そんな中でも頭は黒みが強い茶褐色、のど回りは黄色味が差し、腹や背中は緑から青みがかった黒、翼の羽には白い縁取り、尾羽は茶褐色、そして各羽に白斑があります。
各羽にある白斑が星のように散らばって見えることが名前の由来です。
カラムクドリ
スズメ目ムクドリ科ムクドリ属の鳥で、全長約20cmとムクドリより小柄です。旅鳥または冬鳥で主に九州南部から南西諸島でごくまれに見られます。
全身灰褐色で腹は白です。ただし翼の前面を覆っている羽は白で、先端は黒くなっています。目にも特徴があり、虹彩と呼ばれる部分が水色です。
メスは翼の薄い部分が狭く、頭部も茶色っぽい色をしています。
ムクドリと違って樹上性の鳥で、地上にはめったに降りてきません。
ムクドリはヒヨドリと間違えられる?
ムクドリはヒヨドリとよく間違えられます。
しかしムクドリはその独特な顔の白斑が目立つ鳥です。一方のヒヨドリはムクドリよりも尾が長い特徴があります。
体型もムクドリはずんぐりむっくり感のある鳥です。一方のヒヨドリはスリムでスッとした体形をしています。
体長もムクドリよりヒヨドリの方が長く見えるなど、はっきりとした違いのある鳥同士です。
ちなみにムクドリがこちら。
ヒヨドリがこちらです。
見比べてみるとより違いがはっきりわかります。
※ヒヨドリについて詳しくはこちら
ムクドリは害鳥?
ムクドリはかつては益鳥だった
かつての農業は人の手で害虫を獲り、雑草も抜いて、手をかけて作物を作っていたものです。そんなときに手助けをしてくれたのが、ムクドリのような害虫を食べてくれる鳥たちでした。
ムクドリがパートナーと子供たち6羽で1年間に食べる害虫の数は、根拠は不十分なものの百万匹を超えるという人もいるほどです。たとえその半分としても、かなりの数の害虫をムクドリが取り除いてくれる計算になります。
それだけの害虫を食べて作物を守ってくれたムクドリたちは、昔の人たちからすれば当然のことながら益鳥でした。そのお礼にと、ムクドリの好む果物をわざと全部収穫せずに残しておいたほどです。
しかし時代は変わって人の町は大きくなり、住宅街が増えてムクドリの住環境は大きな変化をむかえます。
農薬や新品種の登場などで害虫そのものも減りました。さらに追い打ちをかけるように、巣を作れる木のうろもなくなってしまったのです。農薬のまかれた場所では餌が獲れず、巣を作る場所は人の家のすき間を利用するしかなくなっていきました。ムクドリと人との摩擦の始まりです。
ムクドリが生き残るための選択
ムクドリも生き物なので餌を食べないわけにはいきません。
雑食性のため虫が減っても食べられるものはあります。しかしそれは生産者の方々が大切に育てている作物でした。中でも農薬の使用が少ない果物の被害が多く、育てる側としては死活問題です。農林水産省によると、ムクドリによる令和2年(2020年)の農作物被害額は1億8500万円でした。これは相当な額です。
ムクドリの習性からくる問題
ムクドリは繁殖期は自分の巣で睡眠をとりますが、子育てが終わると夕方に群れを作って集団で眠るようになります。冬には何万という大きな群れを作り、電線に留まればたわむほどです。
さらに一様に大きな鳴き声を上げ、一斉にフンをする習性があります。そのため騒音にフン害も重なり、非常に嫌われるようになりました。
確かに夜になって暗くなればムクドリは寝入り、声もフン害も止みます。しかし人の多い場所は夜でも街頭などの灯りが多く、ムクドリはなかなか寝付きません。結果として長時間にわたって鳴き声やフン害に悩まされる地域が増えました。
特にフン害は見た目の印象を悪くするだけでなく、不衛生で健康上も問題があります。道路標識や看板などがフンまみれになって、何が書かれているかわからなくなってしまうことも起こり始めました。
そんなフンを掃除する自治体の負担額もバカにならないため、さらに問題は大きくなっていったのです。
今では1年を通して対策の必要な鳥に
気付けばムクドリによる被害は、秋から春にかけては公共の場での騒音・フン害、春から秋にかけては巣を作られることによる一般家庭での騒音・フン害と、1年を通じて起こるようになりました。
もともとは人間がムクドリの住処やエサを奪ったことが原因ですが、対策が必要なことも事実です。
ムクドリは狩猟鳥でもある
ムクドリの被害が増すにつれ、対策として狩猟鳥に指定されました。
本来ムクドリは勝手に殺してはいけない鳥です。鳥獣保護法によって保護されています。しかし狩猟鳥となったことで、法的に手続きを踏めば狩れるようになったのです。
現在ムクドリは狩猟可能期間中なら、1日の狩猟数に上限なく狩ることができます。
狩猟可能期間は毎年11月15日~翌年2月15日の間ですが、自治体によっては期間が異なる場合があるため要注意です。
ムクドリの狩猟には許可が必要
ムクドリを狩猟するためには、まずは猟銃の所有許可を取る必要があります。さらに狩猟したい地域の自治体の許可も必要です。
詳しくは環境省「狩猟ポータル」で詳しく解説されています。必要な知識が揃っているのでしっかりチェックしておくのがおすすめです。
最近の狩猟ブームでエアガンでも狩れる鳥類が人気を集めています。ムクドリもエアガンで狩れるので、興味のある方は挑戦してみてもよいでしょう。
味は少々臭みがあるものの、旨味が濃くて美味しいそうです。
ムクドリの数が減っている?
農村部で減少
かつて開けた土地で害虫を捕ってくれていたムクドリ。そんな農村部ではムクドリは減っています。環境省がNPOやNGO、研究者やボランティアとの協力で、2016年から2021年にかけて行った調査の結果です。減少の原因は定かではありません。しかし日本のムクドリの大多数が生息している地域で減少したため、日本に住むムクドリの総数が減ったことになります。
都市部では増加
農村部などの開けた地域で減少したムクドリ。しかし生息域においてはわずか2%にすぎない住宅地率80%以上の都市部では、増加したことがわかりました。
こちらも増加の理由ははっきりしていません。都市部で増加したことによる弊害が増えたことも事実です。実際ムクドリが増えたと感じている方も多くいます。
生態系が乱れている。それだけは確かです。
ムクドリだけが悪いわけじゃない
ムクドリは環境が変わっていく中で、自分たちなりの生き方をしているだけです。そんな環境の変化をもたらしたのは、私たち人間であることを忘れてはいけません。
ムクドリだけを悪者にしたくはないものですが、これからも摩擦が続いていくのは残念なことです。のんびり餌をついばんでいる姿はかわいいので、そんな姿も見てあげてください。