ツバメ【庭にくる鳥たち】
桜の時期になると近所や我が家の庭の上をスイッと飛んでいく鳥がいます。ツバメです。黒い体に二股に分かれた長い尾羽。見た目にもわかりやすい特徴の鳥です。そんなツバメについて気まぐれに調べてみました。
ツバメってどんな鳥?
ツバメの特徴
ツバメの特徴をまとめると以下になります。
科目 | スズメ目ツバメ科ツバメ属 |
体長 | 約17cm |
体重 | 約17~20g |
翼開長 【翼を広げた長さ】 | 約32cm |
体色 | 雌雄同色 ・頭から背中、翼、尾の先まで光沢のある藍黒色 ・くちばし付け根のすぐ上とのどは赤い ・腹は白 ・胸に黒い横帯 |
ツバメは特徴のある体型
翼は大きくて細長く、尾羽は長くて深い切れ込みが入っています。
その目立つ形状からツバメの尾の形に似たものは燕尾形と呼ばれ、燕尾服の名の由来にもなりました。
ツバメの鳴き声
ツバメのオスは繁殖期になるとさえずるようになります。
そのさえずりは人間の言葉に当てはめる聞きなしで、「土食って虫食ってしぶーい」「土食て虫食て口渋い」などが有名です。
では実際のツバメの鳴き声をどうぞ。
ツバメの名前の由来
ツバメは奈良時代に「ツバクラメ」「ツバビラク」「ツバメ」、平安時代に「ツバクラメ」「ツバメ」と呼ばれました。
江戸時代に入ると「ツバクラメ」は古語として扱われ、「ツバメ」「ツバクラ」「ツバクロ」が主流となります。
そして最終的に落ち着いたのが現在の「ツバメ」です。
ツバメの「メ」は「群れ」をさす言葉か、あるいは「鳥」を表す接尾語からきています。
「ツバ」の部分は諸説あり、鳴き声を表したもの、土で巣を作るところから「土を食む(はむ)」「土を食らい(くらい)」からきたとする2説が有力です。その一方で「クラ」が「鳥」を表すこともあることから、特定は困難とされています。
ツバメは歩くのは苦手
飛行に適した体型をしているのに対し、足が短く歩くのは苦手です。そのため巣を作るための泥を集めるとき以外、地上に降りる姿は滅多に見られません。
水を飲むときも飛びながらという器用な鳥です。
ツバメの生態
概要
ツバメの生態をまとめると以下になります。
分布 | 砂漠地帯や南極大陸、北極圏などを除く広い範囲に80種類ほどが分布 |
分類 | 夏鳥【日本】 |
生息域 | 農村・都市部など人の生活圏【日本】 |
食性 | 肉食 【飛びながらハエ、ハチ、羽アリ、カゲロウなど小型の昆虫を捕食する】 |
天敵 | カラス・猛禽類・猫・ヘビなど |
寿命 | 平均1~2年【上手に生き残れば10年以上】 |
ツバメは渡り鳥
ツバメは夏に繁殖のために日本にやってくる夏鳥です。温帯気候の広い地域で繁殖します。日本では沖縄県でも繁殖する種類がいますが、ツバメは主に九州以北の全域が繁殖地域です。
ツバメは渡るとき、昼間に移動するとされています。そのため太陽を目印に渡っていると考えられている鳥です。
1日300km以上を移動し、近いもので台湾、多くのものがフィリピンやマレー半島などの東南アジア近辺と日本を行き来します。
ツバメが移動する距離を数字にすると、片道2,000~5,000kmの長旅です。平均時速は40~60km、最高時速は200kmという高速で飛行し、島々を経由しながら渡ります。
1日に長い時は300kmも移動するツバメは、「半球睡眠」と呼ばれる能力を持っているのが特徴です。脳の半分だけ寝ながら飛び続けることができます。
この能力のおかげで、適度に休みながらも周囲を警戒して渡れる器用な鳥です。
ツバメの渡り
ツバメは群れで渡るのではなくそれぞれ1羽ずつで渡る鳥です。オスの方が先に旅立つ傾向があり、1羽ずつで渡るのは天敵に発見されにくいためだといわれています。
9月中旬~10月下旬にかけてたっぷりと虫を食べ、体力をつけてから順次渡っていくのです。
ただし中部~西日本では冬になっても渡らずに越冬するものもいます。「越冬ツバメ」と呼ばれるもので、日本で繁殖したものなのか、日本より北のシベリアで繁殖したものなのかわかっていません。
ツバメが翌年も渡ってくる確率はどのくらい?
元の巣に戻ってくるツバメの数を調査したとき、足環をつけた親鳥でも翌年戻ってきたのはわずか22.5%だったというデータもあります。一方でどちらかが戻ってくる確率は15%とするデータもあるなどまだまだ謎の多い鳥です。
若鳥にいたっては、山口県で足環をつけた個体が翌年の伊豆諸島で見つかったという例もあります。
ツバメは前年と同じ場所に戻ってくる傾向があるといわれている鳥です。それにもかかわらずこの数の少なさは、ツバメを取り巻く過酷な現実を物語っているといえるでしょう。
その反面まったく違う場所で同一個体が見つかるなど研究途上の鳥です。
ツバメの繁殖
特徴
日本でのツバメの繁殖形態をまとめると以下になります。
繁殖期 | 4~7月 |
繁殖回数 | 通常2回、多いと3回 |
つがいの形態 | 一夫一妻制【ただしメスは婚外交尾をする】 |
営巣場所 | 民家や納屋など屋根のある人工物で人の通りのある所 |
巣の形・材料 | 半分に割ったおわん型【長径約13cm、深さ約2.5cm】 材料:泥と枯れ草に粘性のある唾液を混ぜたもの 【産座は枯れ草や羽毛】 |
巣作り担当 | つがい |
抱卵担当 | 主にメス |
子育て担当 | つがい |
卵の数 | 3~7個 ・1日1個ずつ産卵 ・平均5個 ・淡い褐色に濃い褐色の斑(鈍端に多い) |
孵化までの日数 | 13~17日 |
巣立つまでの日数 | 20~24日【巣立ち率約50%】 |
巣立った後も親から1週間ほどエサをもらいつつ独り立ちの練習をして独立します。
ツバメの相手選び
3月下旬ごろに渡ってきて気温の変化とともに日本全土に移動して繁殖します。先にオスが渡ってきた後、メスが渡ってくるのを待ってから繁殖するのが一般的です。
稀にメスの方が先につくと、オスを長く待つことなく別のオスを探す様子が観察されます。またツバメはつがいで子育てをしますが、メスは気に入るオスがいれば婚外交尾する鳥です。これらのことから1つの巣に父親の違うヒナが混ざることも珍しくありません。オスにはかわいそうな事実ですが、それでも自分の子孫を残せるだけでもよいようです。
モテるオスの条件
ツバメのオスがモテるには、まず羽の色が重要です。羽の色は健康のバロメーターにもなっていて、羽の色が濃いオスがモテます。着色するだけでモテ方が変わったというコロラド大学の研究があるのです。
さらに羽の色は重要で、ツバメのメスは常にオスの健康状態をチェックしています。羽の色が悪くなるとメスに見限られて逃げられてしまうのです。
さらにモテるオスはほかのオスから嫉妬の対象となり競争相手から刺激を受けます。そのためますます羽の色がよくなるホルモンが出ることも分かってきました。周りが自分をどう見ているかも重要な判断材料です。
もう1つ重要なモテる要素は尾羽。まずは長いことが重要です。羽が抜け替わるときに病気や寄生虫、天敵に襲われるなどの事故があると、生え変わる羽の長さは変わります。悪条件をはねのける強さがあるオスほど長い尾羽を持つことになるわけです。
さらに左右の尾羽がキレイなシンメトリーであることも重要になります。左右がキレイに揃っていることが長さ同様にモテる要素です。もちろん一番モテるのは、長くてシンメトリーなオスであることは言うまでもありません。
一方で日本のツバメの場合は、のどの赤い部分が大きく色が鮮やかで、太っていることが重要という説もあります。いずれもオスの健康状態がモテる条件なのは間違いないようです。
ツバメの巣作り
ツバメは屋根のある人工物、特に人の出入りがある場所を選んで巣を作ります。人のすぐそばにあえて目立つように巣を作ることで、外敵を寄せ付けない狙いです。
巣は泥や枯れ草などと唾液を混ぜて固めて作ります。ツバメの唾液には粘着性があり、その性質を利用して作る巣の形状はおわん型です。古い巣を利用することもありますが、基本的に毎年新しく巣を作ります。
ツバメの子育て
ツバメのヒナはお腹がいっぱいになると後ろに下がって餌をねだるのをやめます。そのためまんべんなくヒナにエサをあげることができるのが特徴です。
しかし親鳥にとってはそれでも重労働なのは変わりません。何せ1羽のヒナが1日に食べる虫の数は100匹以上とされています。
ハエやガ、ときにはトンボなど大型の虫も食べますが、1羽につき1日100匹。それを5羽分。子育てがいかに重労働かわかります。
もちろん親鳥自身の栄養補給も必須です。親子で大量の虫を食べてくれるため、ツバメは昔から益鳥として大切にされてきました。実際に数字で見ると大いに納得できます。
そんなツバメの子育ての記録はこちらの動画でどうぞ。
ツバメは子育て中に連れ合いがいなくなると悲劇が
子育て中の失敗例として、片方の親鳥がいなくなると別のツバメがやってきて、ヒナを巣から落としたり襲ったりすることがあるといいます。その様子はこちらの動画をどうぞ(閲覧注意)。
ただしメスが欠けた場合は様子が違います。複数のほかのツバメが集まり、そのうちの1羽が新たなつがいの相手となって子育てを続けるのです。ツバメは身近な場所で子育てをする鳥ですが、その生態には謎が数多く残っています。
巣立ったツバメのヒナはどうしてる?
巣立ったヒナは秋がくるまで虫を食べながら体力をつけています。親鳥も子育てを終えると一緒になって秋まで虫を食べ、渡りの準備に余念がありません。
先に巣立ったヒナたちは、渡りの時期を迎えるまで集団でねぐらを作ります。川辺のアシ原やヨシ原に集まって集団で寝るのです。
地域にもよりますが、親鳥も参加するようになると一か所に何万羽単位で集まるねぐらも観測されるようになります。ツバメがアシやヨシを選ぶのは、てっぺん付近にとまりやすいことと、適度にしなってイタチなどの天敵が迫ったときに揺れて教えてくれるためです。
近年ツバメは繁殖場所に困るようになっている
かつては益鳥として大切にされてきたツバメですが、近年では営巣場所が減っています。建物の近代化によって巣の作りにくい壁になったことも原因です。
さらに宅地化によって巣の材料の泥を集められる場所まで減りました。そして予想外の天敵も現れたのです。
その天敵とはスズメで、巣作りの場所に困ったつがいがツバメの巣を横取りするようになりました。
また営巣中に人の手で壊される巣も増えて繁殖地が減っています。
※参照データ『日本野鳥の会』
ツバメが家に巣を作ると大変?
ツバメはあえて人通りの多い所や目につきやすい場所に営巣します。そのため洗濯物を干すベランダや玄関先などは最適の営巣場所です。
ときには納屋やガレージの中などに作られることもあります。そのためさまざまな問題が起こるようになるのです。
どんな被害がある?
ツバメが巣を作ることによって起こる一番の被害はフン害です。衛生面ではこのほかにも寄生虫や病原菌の発生があげられます。
またガレージ内や玄関内に巣を作られて、締められなくなったという被害報告もあるのです。そのため不在時に戸締りができなくなるなど防犯上の問題が発生しました。
結局、不審者の侵入を許してしまう危険性に見舞われ、巣の撤去に踏み切るケースもあります。
ツバメに巣を作られないために
ツバメにはかわいそうですが、戸締りできるところはする、巣を作りやすいところには防鳥ネットを張るなどの対処をしましょう。ツバメにとって巣作りしにくい環境にすることが大切です。
ツバメに巣を作られたら?
フン害の場合はツバメの巣の下にダンボールなどを敷いて、定期的に取り換えるといった方法があります。
そのほかにも傘を逆さにして吊るしてツバメの巣の下にフンが落ちるのを防いだり、つっぱり棒にふきんを取り付けてフン受けにしたりと、工夫を凝らしている人たちもいるので調べて参考にするのもよいでしょう。
巣の撤去は最終手段にしたいものです。
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ツバメの巣の撤去はいつでもできるの?
実はツバメの巣の撤去は産卵前でないとできません。ツバメが産卵して子育てを始めた場合、卵も法律で保護対象になるためです。
もし一般人が子育てを始めたツバメの巣を撤去した場合、「鳥獣保護法(鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律)」に違反したとして罰せられる可能性があります。
そのためどうしてもツバメの巣を撤去しなければならない場合は、特別に許可を受けた専門業者に依頼しなければなりません。もし余裕があるならツバメのヒナが巣立った後に撤去してください。それならば誰が撤去しても問題ありません。
ツバメは飼ってはいけない鳥
ツバメは保護でも捕まえると違法行為になりかねない
ツバメは保護対象とされている鳥です。そのため「怪我をしているから」という理由で保護しても、法律違反で最悪禁固刑になることもあり得ます。
では怪我をしている成鳥を見つけたときはどうしたらよいのでしょうか?まずは保護した日時と場所を控えてください。そして自治体に連絡を入れましょう。もちろんすぐに危険が及ぶ場所にいた場合は、布などでくるんで移動させます。
このとき手で抱え込まないようにしましょう。ツバメの体温は40℃ほどのため人の体温では凍えてしまいます。
自治体によっては野生動物を保護する当番医を指定している地域もあるので、教えてもらって診てもらってください。保護の必要性があると医師が判断した場合は、当番医の先生から自治体に掛け合ってもらうことも可能です。
また野鳥の保護窓口を設けている自治体もあるので、キチンと判断をあおぎましょう。野鳥の世話は決して楽ではありません。自分で無理に飼育しようとせず、専門家を紹介してもらうのがおすすめです。
ツバメのヒナが巣から落ちていた場合は?
まずは安易に保護しないでください。実はヒナ鳥が巣から落ちたのかどうかは素人判断できないのです。
もし巣から落ちてしまった場合は親鳥が見守っているので自然に任せましょう。巣立ったヒナの場合もあるので、距離を保ってそっとしておくのが一番です。たとえ連れ帰っても巣立ちの邪魔をするばかりか、通常は育て切れずに死なせてしまいます。
実際野鳥のヒナを育てるのはとても難しいです。まず失敗すると思ってください。かえって寿命を短くすることでもあると言っていいでしょう。
またそのヒナが病気にかかっている可能性もあります。動物病院では治療の対象外の生き物のため、診察してもらえることはまずありません。
とらえようによっては残酷な話に聞こえるかもしれませんが、親鳥が他のヒナへの感染を防ぐため、あえてそのヒナを落としたかもしれないのです。そのようなヒナを巣に戻したら親鳥の決断が無駄になります。
そのほかにも体が小さすぎるため、自然界では生き残れないと親鳥に判断されて落とされることもあります。ほかの子供たちをより確実に育てるための親鳥の決断です。自然界ならではの掟と理解し、決して手を出さないのが一番なのです。
ツバメの仲間
ツバメ
日本で一般的に見られるのがこのツバメです。夏鳥で九州以北の日本全域で繁殖します。
蚊や畑の害虫を捕ってくれる益鳥として昔から大切にされてきました。
イワツバメ
全長約14cmのやや小柄なツバメです。東アジアからヨーロッパにかけて広く分布し、日本では九州以北の山地や市街地でみられます。九州でかなりの数が越冬するため、一部では留鳥あるいは漂鳥といえるでしょう。
ツバメより尾羽が短く切れ込みも浅いです。頭から背にかけて紺色がかった光沢をもつ黒色で、腰や尾の根元、足や腹が白い色をしています。翼や尾の色も濃い茶褐色です。
営巣地は岩場で自然の岸壁に巣を作ります。開発の影響なのか、近年、建造物や橋げたなどにも集団で営巣する様子が確認されることが増えました。
ひさしのすぐ下に深いどんぶり型の巣を作って、小さな入り口から出入りします。巣の材料を集める以外で地面に下りない点はツバメと同じです。
繁殖後の様子は詳しく分かっておらず、まだまだ研究途上のツバメといえます。
コシアカツバメ
東南アジアから地中海沿岸までと幅広く分布しているツバメです。日本には九州以北全域に渡ってきて、九州では少数が越冬します。市街地や農耕地に生息しますが地域によってはあまりなじみのないツバメかもしれません。
全長は約18.5cmと日本では最も大柄なツバメで、尾もツバメより太くて長いのが特徴です。目の後ろから首の後ろにかけてと腰が赤茶色をしていて目立ちます。お腹は明るい褐色で、のどから腹まで黒褐色の縦班があるのが特徴です。
また頭と背中は濃い藍色、翼と尾羽は黒い色と、ツバメとしては派手に見えるかもしれません。
ツバメより1か月ほど遅く渡ってきて、関東南部以西、特に西日本でよく見られるツバメです。
飛ぶ様もツバメと違ってゆったりとしていて、空中の高いところで捕食します。
巣はビルの天井や橋といった、コンクリート製の建造物に好んで作るのが特徴です。
形も特徴的で、口が長めのやや細型のツボを、半分に割って天井部分に貼り付けたようです。泥や枯れ草で作るのはツバメと一緒ですが、集団営巣する傾向があります。
子育て後も繁殖地にとどまりねぐらを作りません。巣をねぐらにし、10~11月初めまで滞在しつづけます。九州で越冬する一団もねぐらは作らず巣をねぐらにしているようです。
ショウドウツバメ
北半球北部の広い地域に分布し、日本では北海道全域の水辺や農耕地、草原に飛来します。約12cmと小柄で、尾羽は広げると台形をしているのが特徴です。
頭から顔、胸、背中、尾羽と茶褐色で、のどから顔の後ろにかけてと腹が白くなっています。胸の茶色い部分は真ん中でやや腹の方に向けて線が付いていて、Tの字のように見えるのも特徴です。
巣は土の壁やがけに穴を掘って集団営巣します。小さい穴を掘ることから「小洞燕」と名付けられました。実際、日本に渡ってくるツバメでは最も小さいツバメです。
北海道のみでの繁殖なので、ほかの地域では春と秋に見られることがある程度というレアなツバメといえます。
5月中旬~下旬ごろに渡ってきて繁殖期は6~8月です。巣の直径は5~10cmと意外と大きい見た目をしています。また奥行きは20cm~1mとかなり深いのも特徴です。
集団営巣するだけあって、巣の周りを飛び交う姿は圧巻の一言としか言いようがありません。
リュウキュウツバメ
インドから東南アジア、オセアニアまで広く分布し、日本では奄美大島以南で留鳥として生息するツバメです。海岸や河川といった水辺のほか農耕地などでも生活しています。
体長は約13~14cmとやや小柄です。止まっていると尾が翼よりも短く見えます。
ツバメと違って胸に黒帯がなく、腹も灰褐色に白い羽が混ざった模様です。頭から背、翼や尾羽が青い光沢のある黒、額から胸にかけて赤褐色なところはツバメと似ています。
ただし尾羽の付け根部分下側には、黒いうろこのような模様がある点も異なる特徴です。
留鳥だけあって奄美諸島や琉球諸島では年間を通して観測できます。特に沖縄本島ではごく当たり前に見られる野鳥です。
人間の生活域だけでなく、河川敷や海岸、断崖や洞窟といった自然の環境下でも生活しています。
食性はツバメと同じで、巧みに飛び回って虫を捕食するハンターです。またほかのツバメと同様に巣の材料をとる以外では地上に降りることはありません。
人間の建造物のほか、洞窟やがけなどの自然物にもよく巣を作ります。形状はツバメと同じおわん型です。
ツバメは幸せの象徴?
ツバメは世界中で幸運の象徴
ツバメは世界中で幸運のシンボルとされています。
まずは春になると渡ってくることから春の使者として愛されてきました。とくにヨーロッパでは復活祭の頃に渡ってくる鳥として、復活と再生を象徴するようになったのです。
またツバメは同じ場所に戻ってくる傾向の強い鳥だったことから、船乗りにとって無事に帰ってこれる安全のシンボルとなりました。ツバメが見えるということは陸が近いということを意味したのも理由です。
エジプトでも夜明けを告げる鳥として神聖視されました。夜明けは吉兆を意味する太陽が昇ってくる時間帯です。このことからもツバメは幸せを運ぶ鳥とされました。
日本でツバメの巣が幸運とされる理由
風水面での理由
風水的に縁起が悪い方角とされる鬼門。なぜかはわかりませんが、ツバメは鬼門の方角には巣を作らないとされている鳥です。つまりツバメはよいエネルギーのある方角にしか巣を作らない、縁起のよい鳥とされています。
ツバメの習性からくる理由
ツバメは巣を壊したりしないやさしい人が集まる場所に巣を作るとされました。よい人の元にはよい人が集まる。つまりよい人間関係を作れる。このことからツバメはよい人間関係を運んでくれる鳥と考えられました。
またツバメは子育てのためにたくさんの虫を捕ってくれる、つまり害虫を駆除してくれる鳥です。特に病気を蔓延させる蚊を大量に駆除してくれるツバメは、文字通り幸運を運んでくれるというわけです。
そしてツバメが子育てをする間、ツバメの巣の下にはフンが落ちます。玄関に巣を作ることが多いツバメの巣の下はフンが溜まりやすい場所です。そのためその家の人はこまめに玄関を掃除します。
玄関は風水では幸運が舞い込む場所です。そこをこまめに掃除をすることは幸運を呼び込むことになります。
ややこじつけ感はありますが、自然と玄関をキレイに保とうとするようになるためツバメは幸運を運ぶというのです。
さらにツバメは自然に生きる鳥のため、危険な場所には巣を作りません。ツバメが巣を作るということは安全な場所と判断したからです。つまり自然災害の心配がない場所だから営巣したということになり、ツバメが巣を作るのは幸運なことと考えられました。
ツバメはどんな幸運を運んでくれる?
ツバメは害虫を駆除し、こまめに掃除するよう促します。そのため衛生面でよい効果が期待でき、結果として無病息災をもたらす鳥と考えられました。
またツバメは平均して5羽のヒナを育て、また年に2回子育てをします。さらにツバメは夫婦で子育てする鳥です。このことから夫婦円満・家庭円満・子宝に恵まれる象徴としてもあがめられました。
さらにツバメは天敵であるカラスや蛇などが寄ってきにくい場所に巣を作ります。つまり自然と人通りが多い場所に巣を作ることになるわけです。
商売をしている人にとって人の出入りが激しいということは、商売繁盛の証でもあります。つまりツバメの巣は商売繁盛をもたらしてくれるものと考えられたのです。
同じようにツバメが増えると商売繁盛できたのが農村です。害虫を大量に捕ってくれるツバメが巣を作ると農作物がよく育って豊作になると考えられました。
農作物そのものを食べないところも、よりツバメがありがたがられた理由です。もう1つ、ツバメは縁結びの神様の使いという説もあります。人との縁を強く願うとツバメが願いを聞いてその縁を結んでくれるというのです。恋愛や仕事上の縁などさまざまな人間関係によい縁を結んでくれるといいます。
ツバメには不幸な言い伝えもある
風水的に見てツバメが巣を作るのは吉兆をもたらします。災いを避け、よい気をもたらすことから、その家を災いから守ってくれるのです。
そのためツバメの巣を壊すことは自ら災いを呼び込むことと考えられました。火事などの災害に見舞われたり、家が衰退したりするというのです。
ツバメにとっても巣を壊されるのは困ること。これらの言い伝えはツバメを守っていたといえます。
ツバメは減少傾向
ツバメが減っている理由
農業の衰退による水田や耕作地の減少や宅地化による自然環境の悪化で、ツバメの親だけでなく子育てに必要な虫まで減ってしまいました。
また近代建築では軒先がなかったり、壁面の材質がツバメの巣作りに適していなかったりするのも原因と考えられています。さらにスズメのように巣を横取りする鳥が現れるなど、ツバメの繁殖環境の悪化が原因なのは間違いありません。
ツバメは巣立つヒナの数も減っている
日本野鳥の会が2013~2020年にかけて行った調査によると、市街地とそれ以外の場所では巣立つヒナの数が違うことがわかりました。市街地では平均3.8羽、それ以外の土地では4.2羽が巣立っていたのです。
また子育てに失敗する要因でも1割弱は人による巣の撤去でした。
過疎化した地域では天敵による捕食が起こりやすく、ツバメは繁殖しづらくなっているのです。
環境省の調査でもツバメは減少
2016~2021年にかけて環境省は日本野鳥の会や山科鳥類研究所などと合同で鳥類の分布調査を行いました。この調査でもツバメの減少が浮き彫りになったのです。
1997~2002年の調査では、指定の観測場所で1万4978羽が確認されました。しかし2021年の発表では8987羽と約2/3まで減っていたのです。
環境省ではこの調査結果を受け、「将来的には絶滅危惧種に指定するなど対策の可能性が出てくる」としています。
見ていて飽きない鳥
ツバメの子育ての様子は見ていて飽きません。ひっきりなしに虫を運んでくる親鳥と、黄色い口を大きく開けて餌をねだるヒナ。一生懸命子育てをしている様子はほっこりします。
しかし最近、我が家の近くではツバメの巣を見ることは減りました。我が家の壁もツバメの巣作りには適していないらしく見向きもされません。ツバメが安心して巣作りできているとよいのですが。